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Bayrakli mosque (Yokush Mosque)

Samokov, Bulgaria : サモコフ・ブルガリア  首都ソフィアからは50Kmほど北へ向かう山間の小さな街サモコフに、それは美しいかつてモスクであった小さなイスラーム建築が佇んでいる。現在はモスクとしての機能は既に全くなく、美術館として使われている。バルカン半島で使われなくなったモスクは得てして内装に漆喰を塗られてしまったりミナレットを落とされたりしてしまうものだが、ほぼ完全なモスクの形状を保っているのは珍しい。片隅にはイーゼルが積まれ、モスクに全く関係ない展示もされているようでもあるが、絵画的な装飾そのものが美術の継承として残されているようだ。1845年頃に完成したと伝えられ、以降修復されている。構造は長方形の2階建てで、寄棟造りのオレンジ色の屋根に青銅色の鉛筆型ミナレットをもつ。バルカン半島でよく見られるタイプのもので、他と違うのはミナレットに煉瓦の螺旋模様があること、屋根からドームが突き出ていることかと思う。4本の柱で支えられたドームは棟の真中心でなく、ミフラーブのあるキブラ壁側に寄って載っている。ファサードは2階に7個の窓が並び、正面から見て7個のアーチを8本の柱で支える柱廊玄関になっている。アーケード状の奥まった1階には、エントランスへの通路と向かって右端に階段のユニットがある。1階の壁は左右とも写実的な花瓶に生けた花の絵やカーテンが描かれている。窓枠や玄関扉などは鮮やかなブルーで、天井は紺色に塗られている。内部は正方形の礼拝堂でエントランス頭上にバルコニーがある。ドームの14枚の窓から光が注ぎ、グレーと金色のバロック調の植物文様を照らしていて、ここがモスクでないことが不思議な程荘厳であった。ドーム内側の頭頂部は六芒星が描かれているのも特徴的である。内部にはモスクのルーツについて紹介のボードも用意されていた。

Sharif Hussein bin Ali Mosque

Aqaba, Jordan : アカバ・ヨルダン  アカバ市内の中心にあるモスクで、1975年に完成したアラブ様式のモスク。モスクのエントランスは中庭を囲む回廊の一部で、そこから中へ入ると水場のある大きな中庭になっており、その先に礼拝堂のエントランスがある。中庭は天井に幕を張っており、日陰になっているが写真の撮影が難しく、訪問後は背後の高台へ向かっていく庭園側へ登り、全景の写真を撮った。長方形の礼拝堂は幅が随分と広く、天井には1個のメインドームを抱く。ミナレットは8角形で3段のバルコニーをもち、中庭に隅に建つ。ミフラーブ、ミナレット中段とドームの外装は鋸歯状の波線文様で装飾されている。モスクの名はオスマン帝国への蜂起、独立運動の指導者であり、現ヨルダン国王家の先祖でもある故Sharif Hussein bin Aliから採られている。

Yildiz Hamidiye Mosque

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  オスマン様式とネオゴシック様式の折衷でデザインされ、重厚な雰囲気のモスクの敷地内には同じ折衷様式の時計塔も建てられている。モスクはオスマン帝国のスルタンAbdul Hamid IIのために、アルメニア人の西洋建築一家Balyan家のSarkis Balyanによって造られたもので、隣接するスルタンの宮殿にも氏のデザインの邸宅が建つ。ドーム屋根自体だけはオスマン様式だが、ミナレットの先端、ゴシック様式のアーチ窓やファサードの冠のような3角形のオーナメントなど全体のシルエットは西洋的で、かと言って教会にも見えない絶妙なデザインである。礼拝堂のドームも少し変わっていて、すっくと立ちあがる4本のまっすぐな柱と多弁形アーチで支えられているのも特徴的。

Jamae Mosque (Chulia Mosque)

Singapore, Singapore : シンガポール・シンガポール  シンガポールのチャイナタウンの真ん中に2本のミナレットが目立つモスクが建っている。ミナレットは角柱型で、頭頂部には左右とも玉葱型ドームが載っている。周囲はショップハウスが立ち並ぶ、絵に描いたような中国系住民の世界であるが(これはシンガポール全体的にでもある)1ブロック向こう側にはヒンドゥー寺院が建ち、他民族国家らしい立地だ。元々は他あるシンガポールの古いモスクと同じくタミール系インド人ムスリムの移民が造ったものである。門は狭く、隣は道路を隔てる塀とブロック両端はショップハウスがあるため、敷地はあまり大きく見えないが、実は随分と奥深く、中に入るまではそれに気が付かなかった。礼拝堂はオレンジ色の瓦屋根のコロニアル風で、アーチの並んだ平屋建て。天井はフラットでドームはない。礼拝堂は大きく区切られていて、訪れた時は手前側で説教中で沢山の礼拝者が集まっていたが、奥のミフラーブのある側は使われていなかった。内装は全体に薄い緑色で、列柱が並ぶ。ミフラーブは鋭角の三角アーチの変わった形をしている。

Sheikh Zayed Mosque

Aqaba, Jordan : アカバ・ヨルダン  赤茶けた岩山を背後にし、真っ白なドームを抱くモスクが紅海を望んで立つ。街並みから外れて建つため、全く以て端正なアラブ様式のモスクのデザインが風景に相まって、静粛な雰囲気を醸し出していた。2012年に完成、設計はヨルダンの建築事務所であるDar Al Omranによるもの。デザインは2本の角柱型のミナレットと横長の長方形にメインドームと2個のサブドームが並ぶ。噴水のある中庭は長方形で、それをアーチのアーケードがぐるりと囲む。アーケードの頭上は小さなドームが並び、中庭と外庭への門と礼拝堂のエントランスの2箇所の頭上だけやや大きなドームが据えられている。礼拝堂内部は3個のドームごとにアーチで区切られ、内装は白、黒、金で統一され唐草調の植物文様が全面に使われている。ドーム内側も唐草調の白い緻密な植物文様に、差し色で金の葉が描かれていてキラキラとドームの窓からの陽を浴びて輝いていた。

Tuanku Mizan Zainal Abidin Mosque (Iron Mosque)

Putrajaya, Malaysia : プトラジャヤ・マレーシア  銀色に鈍く光るドームが無ければモスクであることもわからないかも知れない。まるでスタジアムのような全景をもつ巨大建築で、全体の構造の約70%を鉄が占め、「鉄のモスク」の異名をもつ。規模としてもマレーシアのモスクではシャーアラムの Sultan Salahuddin Abdul Aziz Shah Mosque 、通称ブルーモスクの次の大きさで最大2万3千人を収容するという。地上からはよく構造が見えないので、上階の庭園に上り、ファサードを真正面から見据える。繰り返すアーチと鉄のリブ・ヴォールト状の梁が絡みあうのはなかなか格好いい。設計はマレーシアの建築事務所のKumpulan Senirekaで近隣のPutra Mosqueも設計している。外見の特徴は他にもミナレットが無いことで、付き添いのガイドの青年によれば、もはや伝統の意匠に従わず現代の様々な要素、輸入した素材や技術でモスクを創り上げたとのことであった。ミフラーブは巨大なガラスからできており、ドイツから輸入されたものである。礼拝堂内部は装置に頼らない自然の換気を取り入れていて、涼しい風が循環しており、過ごしやすい。ガイドはマレーシア人ではなくガーナからの移住者で完璧な英語でユーモラスな建築やイスラームの解説をしてくれて、滞在時間を面白く過ごせたのでここに礼をしたい。

Selimiye Mosque -Istanbul-

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  オスマン帝国スルタンのSelim III統治時代に造られた、オスマン建築とバロック建築を融合した優美なデザインが特徴。円と格子を組み合わせた窓枠や曲線を用いた外壁、変則的なデザインのミナレット、礼拝堂のミフラーブのムカルナスも用いない曲線を使った彫刻のような装飾などが美しく幻想的である。ミンバルの壇上へ上がる階段、バルコニーにも彫刻や楕円や緩やかな曲線がデザインに用いられていて、古典的なオスマン様式とは異なっているのが見て取れる。アーチのアーケード上に西洋建築風の住居のような部屋が付属していたり、礼拝堂の尖塔にデコラティブな小さな鳥小屋が壁についていたり、他のオスマン時代のモスク建築との差異に趣きを感じる。場所が不便であるからか訪れる人は少ないようであるが(訪問時は誰もおらず)、大きなモスクの割に柵などの入場制限もないので細部の観察が容易である。

Kampong Pandan Mosque

Kuala Belait, Brunei  : クアラブライト・ブルネイ  ブルネイの石油開発の街であるSeriaから、国境の街Kuala Belaitへ向かう途中に巨大なモスクが建つ。玉子を切った形状をしたメインドームとアラブ風の2本のミナレットが遠くからも目立っていた。礼拝堂の4隅とエントランス上にドームの載った小さなミナレットが幾つも重なる。全体から見るとアラブ様式ではあるが、マレーシアやインドネシアのモスクにあるような斜面と8角形の台座でドームを支えており、マレー様式との折衷も見られる。ドーム内側は暗く線状の模様がかすかに見えたが、ほぼ装飾はないようだった。このデザインは、なぜかここからだいぶ離れた、バンダルスリブガワン首都側にあるPerpindahan Lambak Kanan Mosqueと内装も含め瓜二つである。事情はよくわからないが、単純にコピーして造っただけのようである。外装のメンテナンスには若干手が足りないようで、ドームが煤けてしまってはいるが、林立するミナレットのおかげでマッシブな印象を残し、周囲を囲む池と深い緑の樹々に映えている。池には鰐に注意の看板もあるところ、水トカゲが出てきて少し驚いてしまった。セリアやクアラブライトと、石油関連に興味があるか、国境越えでくらいしか来ることのなさそうな地域であるが来る機会があれば、訪れると面白いと思う。

Shahbeddin Pasha Mosque (Imaret Mosque)

Plovdiv, Bulgaria : プロブディフ・ブルガリア  ブルガリア中部のPlovdivに現存するモスクのひとつである。逆T字型のオスマン様式のモスクで、ポルティコに5個の小ドームと4箇所に区切られた礼拝堂の各々の頭上にドームを持つ。エントランスのホールから3方向に礼拝室があり、どちらも段差がついている。ミフラーブのあるメインホールは真正面で段差が大きく、木製の階段を登っていく。メインドームの装飾はムカルナス文様のみで内部は頭頂部のパターンが残されている以外ほぼ白く塗られている。全体の装飾はバロック調で、シャンデリアが下がるホールを区切るアーチのパターンが素晴らしい。修復中なのか途切れてしまったりはしている。ミフラーブ上のアッラーの名前を記したカリグラフィーでさえもバロック調のパターンを使っている。鉛筆型ミナレットは鋸歯状の波線が刻まれていてユニークなものである。小さなモスクであるが、見どころがまとまったモスクなのでDjumaya Mosque近辺まで散策に来たらここも外せない。

Abu Darwish Mosque

Amman, Jordan : アンマン・ヨルダン  丘陵を上がったその頂上側の端に建ち、モスク背後からはアンマン旧市街を眼下に望む。石を組んで白と黒のコントラストを作り出しているユニークな外装で有名でもある。ドームまでも石組みで菱型の幾何学文様で造られている。色の違う石組みでストライプ模様を表現するのは、近隣のレバノンやシリアの古いイスラーム建築でも使われており、レバント地域の伝統的な手法を取り入れている。全体にシャープな印象であるが、丸いステンドグラスの窓がアクセントになっている。ミナレットだけは鉛筆型のオスマン様式風のデザインであった。隣には学校が併設されていて、子供達の声は響いて来るのだが、モスクは門が閉ざされており、無人のようなので特に内部への訪問はせずに周囲から撮影したのみ。

Duli Pengiran Muda Mahkota Pengiran Muda Haji Al-Muhtadee Billah Mosque

Bandar Seri Begawan, Brunei : バンダルスリブガワン・ブルネイ  バンダルスリブガワンの水上家屋群にあるローカルモスクでブルネイ・ダルサラーム国のAl-Muhtadee Billah皇太子の名を冠している。モスクは実際は陸側に建造されているが、この集落はKampong Tamoi Tengahと呼ばれる場所で、ツーリストが頻繁に訪れる市街地の対面側にあるボートで渡る側ではない。著名な Omar Ali Saifuddien Mosque の横の河向こうに横へと広がる水上家屋群であり、日中は出歩く人もまばらな静かな地域であるが、なかなか立派なモスクである。近隣のマレーシア・サラワク州で見られるような、伝統家屋建築を模したであろうピラミッドのような段差のついた屋根をもつ。塔頂部にはグリーンのドームが映え、4隅には4本のミナレットが聳える。モスクの庭は円形に造られて、周囲をぐるりと回廊が巡り、8本の通路でモスクへアクセスするデザインになっている。

Alaca Imaret Mosque

Thessaloniki, Greece : テッサロニキ・ギリシャ  オスマン帝国時代に建造された、ギリシャ国内にほぼ原形を保ったまま現存するあまり多くはないイスラーム建築である。デザインは伝統的なオスマン様式で造られ、格子模様であったミナレットはギリシャ時代になり破壊されたため崩れた土台以外は残っていない。オスマン帝国を引き継ぐトルコではビザンチン時代の正教会はモスクに転用されている。対してギリシャでは国内に残るオスマン帝国時代の建造物は基本的に廃墟のように放置か倉庫・美術館などの別の用途に転用されている。お互いの感情を察するとなかなか第3者の視点では言い切れないことも多いが、このモスクも一度美しく修復を受けアートに展示などにも利用はされたものの、現在は他あるイスラーム建築と同じくほぼ放置された状態である。公園と駐車場に囲まれており、外装だけ見に行くことは現在可能。メインドームは2個あり、ポルティコの小ドームは5個。メインドームを挟んで小ドームが2個づつ並んでいる。見慣れない煙突状の突起が側面に3本見えるのは、おそらくモスクの名前になった、「Imaret=慈善事業の食事を提供する施設」からなのではないかと思う。

Little Hagia Sophia Mosque

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  レンガ造りではあるものの、鉛筆型ミナレットと典型的なドームとアーチのポルティコから一見オスマン様式建築にも見えるが、元は初期ビザンツ様式の東方正教会建築である。他ある正教会と同じように、オスマン帝国時代にモスクへと転用されている。元の名称はChurch of Saints Sergius and Bacchusであった。天井は16個に分割された8角形の傘型のドームを8本の柱とアーチで支えている独特な構造で、クリーム色とブルーで彩られた荘厳な礼拝堂を見ることができる。また、バルコニーを支える列柱は大理石で造られ、バルコニーの淵は植物文様と今でも古代ギリシャ文字が刻まれているのが見える。名称のトルコで表すと「小さなアヤソフィア」であるが、特にこの元正教会のモスクと、同じく元正教会の現 Hagia Sophia Grand Mosque とはあまり関係がないようで、見ての通り特に似ている雰囲気は正直言ってないのが実情である。ただ、ペンデンティブと呼ばれる正方形に載せた半球の一部を3角形状に切り取って、頭上にあるドームを支えるための構造はビザンツ様式で発展したもので、特に本家Hagia Sophiaのドーム構造が世界的に有名ではあるが、こちらには「小さな」と名を付けられてはいるものの、同じ構造のドームの建造は先行していた。そのリハーサルであったとも言われているところに価値は見いだせると思う。

Dzhumaya Mosque

Plovdiv, Bulgaria : プロブディフ・ブルガリア  ブルガリア中部の、第二の都市プロブディフに現存し現在もモスクとして信徒を集めている。首都ソフィアでは1箇所のみ残っているモスクであるが、プロブディフ市内では確認できただけで3箇所(うち1箇所は閉鎖中の可能性)があり、ここは市内最大級のもの。モスクのファサード1階側はオスマン様式の小さなドームが載るポルティコはなく、ほぼトルコ式のカフェが占めているユニークな構造である。モスクへはカフェのテラスに置かれた座席の間にある階段を登って行く。モスクは長方形で、カフェ東側にオスマン様式の鉛筆型のミナレットが1本建つ。デザインはバルコニーは挟んで下が格子で上がストライプで洒落ている。礼拝堂屋根には青銅色の伝統的なデザインの丸いドームが3個並び、それを挟み緩やかな傾斜のついた板チョコレートのような形の長方形のドームが合計6個側廊上に並んでいる。

Khan Mohammad Mridha Mosque

Dhaka, Bangladesh : ダッカ・バングラデシュ  台座上の中庭に建つモスクの礼拝堂へは、地上で靴を脱ぎ、階段を登って上がり門をくぐり抜けて進むユニークなモスクで、ダッカに残る貴重な歴史建築でもある。雰囲気は同じくダッカ郊外にあるSat Gambuj Mosqueにも似ていて、同じムガール建築で造られており興味深いものであるが、アクセスの不便さのせいか見学に訪れる観光客を見かけることはなかった。礼拝堂の3個のドームはムガール様式のデザインで、中央がやや大きい玉葱型である。ドームの下もムガール様式の多弁形アーチのあるエントランスが各々あり、礼拝堂へ続く。外見はだいぶ煤けてしまっているが、内部は美しい白さを保ち、デザインはこれもまた前述のSat Gambuj Mosqueモスクに似ている。全体を地上の庭園広場から見上げると5m程の高さにあり、その下の台座には連なるアーチで飾られた廊下に小部屋がずらりと並んでいて、そこで暮らしていた人々がいたとのこと。中を見ることができたが、最近でも誰かが住んでいたような形跡があった。

Grand Husseini Mosque

Amman, Jordan : アンマン・ヨルダン  アンマンの旧市街に建つ市内最古のモスクであり、大きな広場に面し人々を集めている。ただし、現在の姿は修復されたもの。薄い砂のようなピンクとベージュの波打つストライプが美しい。ミナレットは2本。正面から入ると、実はその中が現在はガラスのフードで覆われた水場のある中庭になっており、正面玄関は回廊の一部であった。さらに奥へ進むと礼拝室が控えている。建物の後背は大きな市場になっているため普段でも賑やかな場所であるが、礼拝時間以外にはモスクは開かないようで、礼拝時には近隣からの信徒でごった返していた。内部への許可は貰えたのだが、中庭を越えてアーチにある礼拝室へは入らず。名称は同じく市内のモスクの名前になっている故Abdullah I初代国王の父である、故Husayn ibn Aliから採られた。

Bodrum Mosque

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  元はビザンツ様式で建造された十字形の礼拝堂をもつ東方正教会で、The Myrelaion churchと呼ばれていた。十字軍のラテン帝国による戦乱を辿り、その後のオスマン帝国の占領でにモスクに転換された。ミナレットだけはオスマン様式の鉛筆型のものを付け足されたものである。現在は修復され、内部は美しく保たれている。イスタンブールの典型的な中層ビルが並ぶ商業地域で坂の途中ではあるものの、モスクだけは更に高台に嵩上げされた場所に立ち、礼拝堂のある地上階の下に地下階があるような造りになっている。十字形の礼拝堂天井は4個の交差ヴォールトで造られ、その中心のドームは少し変わっていて、水の雫のような丸みを作る溝によって、南瓜型とも言うような形状になっている。その構造のバランスが美しく計算されているようで、光と影によって薄っすらと淡く浮き出ているので、トルコで典型的なオスマン様式にはない表現を見て取れる。教会を転用したモスクらしく、ミフラーブとそれに合わせて礼拝の列を表す絨毯のラインも身廊に対して斜めに角度がついている。

Yeni Mosque -Thessaloniki-

Thessaloniki, Greece : テッサロニキ・ギリシャ  ギリシャ北部の港湾都市に残る歴史建築で、ムーア、ゴシック、六芒星とイスラーム建築のドームが融合したような折衷のデザインが目を引く。重厚な設計はイタリア人建築家のVitaliano Poselli。オスマン帝国時代のテッサロニキで数々の建築作品を手掛けていた。元々はユダヤ人のイスラーム改宗者コミュニティのもので、オスマン帝国の終焉以降、ギリシャ時代には使われなくなってしまった。最近では倉庫として使われたり、展示などのイベント時に開放されたりしていたが、ようやくイード(ラマダン明けの祝祭)に開放され、教徒が礼拝に訪れることになった。ただし、現在はまた閉鎖してしまっているので、次の機会はまだ不明なである。市内から離れているのでここまで見学に来る人はいないかと思いきや、数組の観光客がわざわざ立ち寄っていた。情報では平日は開いているともあり、どうやら混乱しているようである。

Banya Bashi Mosque

Sofia, Bulgaria : ソフィア・ブルガリア  ソフィア市内一番の繁華街に建ち、礼拝時間だけでなく観光客の訪問でも賑わう伝統的なオスマン様式のモスク。オスマン帝国時代に数々のモスクを建造した天才建築家のミマール・スィナンが造った、バルカン諸国に現存する貴重な建築である。また、ソフィアでもおそらく唯一のモスクである。撮影にいつ行っても人混みや、そうでなくてもファサードに人が多くうまく写真を撮ることができなかった。ブルガリアは過去にオスマン帝国であった時代があるとはいえ、スラブ人の国家だけになぜこんなにも礼拝者を集めるのかとも思ったのだが、この国は意外に多民族国家で顔立ちを見てもトルコ系またはトルコ人の人口が多い様である。また、モスクの付近にはシナゴーグや正教会もあり、多様性を持つ地区でもある。モスクはそれほど大きくはなく、礼拝時はかなりの人混みになっていた。

King Abdullah I Mosque

Amman, Jordan : アンマン・ヨルダン  ヨルダン初代国王の名を冠した、アンマン市内の中心的なモスクであり、ブルーの幾何学文様が美しい。1989に完成、図書館や講義室などの設備を整えた複合施設で、博物館までも併設されておりモスク内部へ観光客も受け入れている。礼拝堂は表玄関から階段を登り、階上にある。8角形で上部をほぼ緩やかな傾斜のついたお椀のようなドームが占めている。中庭は正面から見ると階上のモスク後ろ側にある。礼拝堂の外壁や中庭のアーケード、特に2本のミナレットはドームの柔らかい印象と違い、コンクリート製のブルータリズム感で鍾乳石模様を表現しているようでなかなか面白いデザインである。

Al-Sultan Muhammad Thakurufaanu Al-Auzam Mosque

Malé, Maldives : マレ・モルディブ  モルディブの首都に造られたイスラミックセンターとも呼ばれる5,000人の収容人数を誇るインド洋地域では最大級のモスク。形状は至ってシンプルでモスクとしては特に特定の様式を主張するようなデザインではなく、放射状の光線のような文様が入った、イーワーンにも見えるエントランスの大きなアーチとカリグラフィー、背後に金色のメインドーム1個と2階のメインの礼拝堂へ地上から続く幅のある階段構成されている。建物向かって左に独立してミナレットが1本建ちっている。それは3段のバルコニーをもち、鋸の歯状のデザインを纏い角柱から8角形へ、そして頭頂部のドームへ変化するデザインだ。見たところ礼拝者は正面エントランスの階段は使わず、横にある1階事務所側から内部の階段からアクセスしている。内部の階段を上がり礼拝堂の前に建つと、廊下との透かし彫りの扉を隔て、正面に緻密な木彫りの巨大なミフラーブが視界に入る。管理事務所からは、礼拝者がいるので、礼拝堂内で撮影はしないでほしいとのお願いがあったので礼拝堂には立ち入らず。礼拝堂上部のドームは白く塗られたものだったが、工事中のようで、見学の様子を見ていた礼拝者から、なにやら雨漏りがあるようで直しているんだとのことであった。

Arap Mosque

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  以前、 Suleymaniye Mosque を訪れた時に「イスタンブールで一番素敵なモスクが、このモスクの向こう側にあるんだよ」とボランティアガイドの青年はそう教えてくれたことがあった。それがこのArap Mosqueで、金角湾を挟みほぼ真正面のKaraköy地区の雑居な低層ビルの並び建つ中に埋もれてしまいそうに建っている。確かに彼の言うとおり、イスタンブールでは見たことがないタイプの独特なモスク建築で、その言葉は頷ける。自身は一度訪れたモスクに撮り残しがあっても再訪するようなことは、きりがないのであまりしないのだが、初めて訪れた日は曇天で、室内は光が届かず神秘的ではあったがうまく撮影はできなかった。それから数年経ち、晴天の日を選んでもう一度来てみたのであった。案の定、木造の屋根やバルコニーが美しく映え、荘厳なモスクであることを再確認できた。モスクはローマカトリック教会のThe Church of Saint Dominicが原型と言われ、イスタンブールで主だったビザンチン様式でも、オスマン様式でもない3列の身廊をもつ長方形のゴシック様式で、珍しいものだと思う。トルコ語の名称の「Arap (Camii)」はアラブを意味する。キリスト教会を転換したモスクは得てして礼拝の軸がメッカからずれているものであるが、このモスクのミフラーブは壁の方向のままに据え付けられていた。レンガ造りの角柱のミナレットもまた美しく、ゴシック建築に後から尖塔を追加された。モスクは細い路地にあるのでミナレットに気が付きにくいが、1本の路地だけから正面に見上げることができるので必見である。

Sultan Ibrahim Jamek Mosque

Muar, Malaysia : ムアル・マレーシア  ムアル川沿いに建つ、寄棟造りの屋根とイギリスの西洋建築が融合したコロニアル風のモスクで、意図は不明だが対岸の Sultan Ismail Mosque はこのモスクの1887年の完成の後、相似のデザインで建造されている。建物側面にせり出したキューポラの載った大きなドームは、モスクというよりも植民地時代の政府関係の庁舎にでも使われるような美しいデザインで、当時のジョーホール州のイギリスとの結びつきを感じる。ミナレットも独特で、正方形のバルコニーに円柱状の塔のような西洋風のデザイン造られた。対岸のモスクとの大きな違いは礼拝堂上部の天井のドームの有無で、こちらのモスクには無く、天井はフラットである。浄め(ウドゥー)を行う水場もまた独特で、天井に円形の吹き抜けが造られ、見上げると空とミナレットが目に映る。対岸と同じくメッカの方角が側面の大ドームになるが、キブラ壁にミフラーブの凹みもないため、ガイドは無いが金細工の大きなミンバルが真ん中に立つ。

Qassabtuly Mosque

Dhaka, Bangladesh : ダッカ・バングラデシュ  ダッカ旧市街、オールドダッカの喧騒の中に緻密な花や果実のモザイクに囲まれた美しいモスクがあった。リキシャや人々が行き交う路地は狭く、商店が立ち並ぶ一角に突如として緻密な文様の散りばめられた壁が現れるので、最初にこれはモスクなのかと考えてしまう時間もないくらいであった。ドーム、柱、壁面の文様は同じくモザイクで飾られた有名な Tara Mosque(Star Mosque) と似ているが、こちらの方がより作り込まれているのとタイルを装飾に使用していない。あちらに比べてあまり有名ではないのではと思うのだが、やはり場所のせいか。路地からは玉葱型の月星文様の入った3個のドームを望むことができる。大きなキブラ壁の外壁側の下部分にはモスクの名称がローマ字・ベンガル文字・アラビア文字で、これも勿論モザイクで描かれ、ヒジュラ暦の1338 年(西暦で1919年)おそらく完成の日付が入っていた。現在は内部は増築されており、礼拝堂の前は大きな広間になっていて、礼拝室とは金の縁取りの入った5個の多弁形アーチで区切られている。さらにその奥は前述のTara Mosqueと同じように礼拝室をドーム側と区切る植物文様のアーチと壁、アコーディオン式の柵で仕切られている。柵は閉まり真っ暗だったが親切な門番が明かりを灯し、鍵を開けてドーム側へ入れてくれた。ドーム側の内装はとにかく煌びやかで白いセラミックタイルの一片もが砂糖の結晶のように輝いていてとても美しい。天井の真っ白なドームも際立つブルーのムガール調の縁取りで飾られている。機会があれば是非とも奥の礼拝室まで見て欲しい。

Ash Shaliheen Mosque

Bandar Seri Begawan, Brunei : バンダルスリブガワン・ブルネイ  首都バンダルスリブガワン郊外の丘陵地に建つムーア様式のモスクで、サウジアラビアの Quba Mosque の再建や King Saud Mosque の設計をした巨匠Abdel-Wahed El-Wakil氏によるもの。モロッコのモスクにあるような水場や中庭の噴水のタイル使い、スペイン・アンダルシアのメスキータにあるような赤白のストライプのアーチの列柱、ムーア式の多弁アーチのミフラーブと、東南アジアでは異彩を放つエキゾティックなスタイルだ。外見は現在建築風のシャープなカットに緩いカーブを合わせ、3段の半円の格子窓が2列並ぶ独特のデザインで、現在は鳥よけなのか格子にネットがかけられてしまい、それが少し残念である。エントランスをくぐると開閉式のガラス天井のある中庭があり、さらに礼拝堂内に入って見上げると、アーチの列柱によって分割された幅のある細い長方形の礼拝室、2列3段の半円の窓と2個のドームと、外から見えた窓のデザインが内部でどうなっているのかがよくわかる。

Hayat Bakshi Mosque

Hyderabad, India : ハイデラバード・インド  ハイデラバード市内に行き渡るゴールコンダ王国時代のインド・イスラーム建築であり、ドームのない長方形の礼拝堂と角の2本のミナレット、5個のアーチと典型的・伝統的なその姿で建造された。ミナレットの上部や透かしの欄干がとても美しい。地面から台座のように一段高くなったところに中庭があり、礼拝堂は更に高く数段の階段の上に建つ。中庭は靴をはいたまま、階段の下で靴を脱ぐようである。アーチには柵と扉が付いていて、礼拝堂に内部を見ることはできなかった。モスクの中庭の周囲はぐるりと廃墟のような状態の放置された小部屋で囲まれていて、過去には旅人や巡礼者や商人の泊まるキャラバンサライであった。外部からのアクセスは小部屋の列の区切る美しいアーチの門からで、モスク中庭の左右と前にある。

Yeni Mosque -Istanbul-

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  ガラタ橋を望む金角湾前に巨大なオスマン様式のモスクが威風堂々と立ちはだかる。イスタンブール各地域を結ぶフェリー乗り場を前に、隣に巨大なスパイスマーケット、Egyptian Bazaarを控えた場所だけに、礼拝堂は観光客が見学にたくさん訪れていた。ビルのようにも見える角ばった重厚なファサードの向こうは、門をくぐると中庭を囲む小さなドームとアーチのアーケードになっている。中庭の広さと、大通り側からは遠くに見えた礼拝堂の大きさには圧倒される。中庭と礼拝堂は共におよそ正方形でその境に3段のバルコニーの着いた鉛筆型ミナレットが2本聳え立っている。モスク自体は典型的なオスマン様式でメインドームとそれを十字に支えるハーフドーム、小さなドームが4個ある。内部は青いタイルの巨大な柱、円のシャンデリア、見上げると緻密なアーチの文様、重なる巨大なドームと、その荘厳さには息を呑むばかりである。

Tara Mosque (Star Mosque)

Dhaka, Bangladesh : ダッカ・バングラデシュ  バングラデシュを訪れる日本人の間では、星の文様が散りばめられたドームと、礼拝堂を飾るなぜか富士山のタイルで有名なモスクとなっている。リキシャや人々が行き交うカオスのような旧市街・オールドダッカの真ん中にあり、細い路地をぐるぐると巡って辿り着く。非常に不便な場所ではあるが、旧市街は訪れることだけで観光のハイライトになるような場所なので、街まで来てしまえばそう難しくはない。モスクは低層の住宅やらアパートの続く路地が開けた、学校の校庭の隣にあり、モスク自体も大きな中庭があるので分かりやすい。ムガール様式で建造され、礼拝堂は長方形の1層で頭上に2個のメインドームと3個のサブドームを抱いている。煤けてしまっているが、青い星の文様から、Star Mosqueとも呼ばれている。ファサードは9個の多弁型アーチからなり、煌びやかな星と植物文様で装飾されている。よく近づいて見ると塗装ではなく、文様だけでなく無地の白い部分でさえもちろん、細やかなモザイクで造られているのがわかる。礼拝堂内部は細長い2部屋に壁とアーチで区切られていている。時間によってはアーチに据え付けられたフェンスが閉じられているようであるので、ドームとミフラーブのある側を見学したいのであれば礼拝時間過ぎの方がよいのかも知れない。内装も外壁と同じモザイクと、花柄のタイルで彩られていて、富士山のタイルもその一部にはめ込まれている。

Kowloon Mosque

Hong Kong, Hong Kong : 香港・香港  香港九龍側の繁華街であるネイザンロードに沿って、白いモスクが建っている。モスクの敷地は九龍公園の横にあり、密集した香港独特の中層ビルが途切れ、大きく空いたような空に白く大きなドームと4本のミナレットが一際目立つ。1984年に完成した。元々付近の尖沙咀は元英領の歴史故、同じ英領であったインド亜大陸系の人種が多く集まっていたが、モスクを訪れるのも人々も、見ていると殆どがそのようだ。ネイザンロード階段を上がった1階はホールがあり、さらに階上へ上がると2層になったドームのある礼拝堂がある。1階は机が並べてあったが、こちらも礼拝室として使うことができるようである。階段を登り礼拝堂に入る。透かしの文様が入った大きな窓から太陽光が差し込み、内部は明るい。メインドームは外側も内側も文様はなく白く塗られているのみ。見上げると天井はドームの直径で円に切り取られていて、上層のムスリマの礼拝堂と吹き抜けになっている。デザインとして4個のお椀を伏せたような小さな植物文様のドームが、メインドームの周りに十字形に配されている。中には数人の礼拝者のみがおり、音もせず、香港屈指の繫華街の人々が行き交う雑踏の中で、忽然と静寂の空間が広がる不思議な印象であった。

Al-Sheikh Qasim Bin Muhammad Al-Thany Mosque (Hulhumale Mosque)

Hulhumalé, Maldives : フルマーレ・モルディブ  モルディブは言わずと知れたリゾートの群島であるが、基本的に外国人の滞在する高級リゾートと一般の住民の生活は隔絶されている。このモスクは土地の僅かなモルディブの国策として埋め立てを拡張している巨大な人工島フルマーレにある。島は首都マーレから船で15分程、陸路でも橋が本島から繋がっている。島の名からHulhumale Mosqueとも呼ばれており、商店などが並ぶ繁華街近くの木立の中に建つ。モルディブでも大きなモスクのひとつでもあり、モスクは円形で三角形の集合体からできた金色のドームが覆うように載った構造である。ミナレットは礼拝堂本体の建物から独、立して僅かに離れていて、頭頂部にはドームと同じような三角形の集合体のデザインの小さなドームがある。ブルーの床と白い三角形の繰り返す構造からの幾何学文様、三日月のような形状に切り取られた2階のバルコニーと大きな吹き抜けが織りなす空間が壮大で、ドームを外から見るのと内部は相当違った印象であった。

Fenari Isa Mosque

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  Lips Monasteryと呼ばれた修道院(通称北教会)と、後から隣接して建造されたThe Church of st. John(通称南教会)とが内部でアーチを隔てて繋がっている複合施設を、モスクへ転用している。北・南教会はビザンツ様式で建造された。その後に教会の南側と西側をL字の外部ナルテックスで覆い、15世紀末にモスクへ転用され、南西の角にミナレットを付け足されている。火災や修復、廃墟の時代を経て、現在は改修が終了し新しいモスクとして礼拝に開放されているが、北教会側のドームの淵は修復中のようにギザギザのままであった。メインの礼拝堂は南教会側で、こちらはドームは見たところ整えられており、半ドームの祭壇の位置に木製のミフラーブが礼拝の方向に角度をつけて置かれている。モスクは多くの人々が行き交う大通り沿いに建ち、訪れたのは礼拝時間をはずしたのであるが、中はずいぶんと沢山の礼拝者が訪れており撮影は難しかった。驚いたのは中国西方のムスリムの青年が礼拝に訪れており、こちらを中国系ムスリムかと思ったらしく話しかけられたことである。在住者とのことであったが、ビザンチン時代の正教会建築建築を改装したトルコのモスクで出会うとは思いもよらず、いろいろと話を聞いた。

Sat Gambuj Mosque

Dhaka, Bangladesh : ダッカ・バングラデシュ  ダッカのやや郊外に建ち、訪れ難い立地に建っているのではあるが、ダッカに現存する17世紀ムガール帝国時代のイスラーム建築として非常に価値のある存在であるかと思う。僅かな近隣の住民が礼拝と寛ぎに来ているくらいで他に観光客などは見かけず、静寂に包まれたモスクであった。外装は経年劣化が進んでいるのだが、ほぼ長方形の礼拝堂の中心にメインドームが1個、両脇に若干小さなサブドームが2個、長方形の4隅にのめり込むように接して8角形の塔状のドームの付きミナレットが配置されている。小さなスマートフォンのカメラでは上手く撮れなかったのだが、どこか高い位置から全体を俯瞰すると分かりやすいかと後で知った。頭上に合計で7個のドームをもち、ベンガル語でSat Gambuj Mosque=「7個のドームのモスク」と名付けられた。玉葱型ドームと、門と礼拝堂正面、ミフラーブにも多弁形アーチを配し、その時代の通り、ムガール様式で建造されている。礼拝堂のドーム内部は漆喰で白く塗られ、2層の塔状のミナレットの1階平面の天井も同じように白く、どちらも同じ漆喰のパターンで飾られている。

Sultan Abu Bakar State Mosque

Johor Bahru, Malaysia : ジョホール バル・マレーシア  重厚な英領コロニアル建築のモスクが、シンガポールとの海峡を見下ろす小高い丘に建っている。寄棟造りの大きな屋根をもつ礼拝堂にメインドームはなく、天井はフラットである。礼拝堂は長方形で左右対称であるが、建物自体は庭を前から見て左側が長い。ミナレットは4本あり、うちメインの2本はファサードと裏庭の側玄関の礼拝堂に張り出している。大きなアーチで車寄せを造り、その上に小さなドームの載った8角形のミナレットが建つ。最上階には丸い窓、ドームには冠のようにキューポラが載り、ミナレットらしかなるイギリスの時計台風の荘厳なデザインであるが、インドのムガール・ゴシック建築の折衷も感じられる。礼拝堂への訪問はできなかったが、開いたドアから金色の天井を少しだけ見ることができた。名称となったSultan Abu Bakarはイギリスのビクトリア女王と関連が深く、その治世である、ビクトリア時代に影響された建築がジョホール州に多く造られており、このモスクもその影響下にある。その名を冠したモスクが完成したのは1900年のことであるが、本人は完成を待たず滞在中のイギリスで亡くなっている。

Secretariat Mosque

Hyderabad, India : ハイデラバード・インド  Hussain Sagar Lake湖畔に近いSecretariat地区にある2023年に公開されたモスクである。開発で壊された「Masjid-e-Hashmi」と「Masjid Dafatir-e-Mautamadi」の2箇所のモスクの代替としてテランガーナ州政府によって新しく建造された。華美な装飾はなく、8角形の台座をもつ玉葱型のドームと純白の外壁が青い空によく映える。エントランスから礼拝堂への通路はゴシック建築で使われるバットレス(控え壁)が並ぶ、インドのモスクでは見かけない現代建築風の要素もある。中庭は通路を挟んで反対にあり、外からは見ることはできない。北端の礼拝堂・通路・エントランス・ミナレットと続く棟と離れて、南端に別棟のドームがある礼拝堂があり、前述の「Masjid-e-Hashmi」と旧名が壁に書かれている。

Rustem Pasha Mosque

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  モスクの周囲は巨大なバザールに面しており、初めて訪れた時は一体どこがモスクの入り口なのか分からなかった。幾人かの礼拝者達が小さな入口から階段へ向かうのを、人混みのバザールの通路で見かけて付いて行き、やっと訪れることができた。狭い階段を登り抜けると突然視界が広がり、2階の細く長い中庭へ導かれる次第だ。1階のバザールから中庭への通路は両端に2箇所。モスクは意外にも大きく、傾斜のついた庇に乗った5個の小ドームのポルティコが現れる。イズニク地方の青い花模様のタイルで飾られており、非常に美しい。青いタイルはファサードだけでなく、礼拝堂内部の柱や壁やミンバルにもびっしりと貼られており、必見。土台の建物は長い月日が経っている感じがするがモスクは清潔にメンテナンスされている。伝統的、典型的なオスマン様式の建築で、鉛筆型の1本のミナレットをもつ。オスマン帝国時代の天才建築家であるミマール・スィナンの作品で、モスクの名称は建立の依頼を受けたオスマン帝国政治家のRustem Pashaより採られた。

King Salman Mosque

Malé, Maldives : マレ・モルディブ  1万人の収容人数を誇るモルディブ最大級の現代建築のモスク。ドームではない鋸の刃のような独特の錐状の屋根をもち、首都マレの人口ビーチ横に海を臨んで建てられている。サウジアラビアのSalman bin Abdulaziz Al Saud国王からの寄付で完成し、その名を冠した。最終的なデザインはトルコの建築事務所であるBütüner Architectsである。元々のデザインはマレーシアのNRY Architectsがモルディブ伝統建築をモチーフに創り上げたところ、建設の遅延から円錐形の屋根やイスラームの五行を表す5本のミナレットなどの要素を、トルコ側が引き継いで造られた(それについては後々揉めていることがニュースになった)。長らく開いているのかよくわからない状況であったのだが、2024年現在は礼拝所として開放されている。あまり大きく見えないが、6階建てでメインの礼拝堂は階段を登った2階にあり、その他会議場のような多目的ホールやと図書館などが付帯したイスラームの複合施設となっている。

Baitul Mukarram National Mosque

Dhaka, Bangladesh : ダッカ・バングラデシュ  メッカの聖殿カアバを模した、4万人もの礼拝者を収容できる、首都ダッカを代表する巨大モスクである。全体のデザインは連続した尖頭アーチをモチーフに使い、ムガール様式も意識して造られている。1階もまた、ほぼ全てが巨大なマーケットになっており、商店で埋め尽くされているのには驚いた。運営事務所は1階にあるが、モスクや中庭などの礼拝の施設は全て台座上になった2階にある構造になっている。礼拝堂には3個のアーチとドームのあるポルティコが、メトロの走るTopkhana Road面した側と市場Bangabandhu Aveに向かう広大な中庭側の2箇所にある。角丸長方形のバルコニーが層になった礼拝堂上部にはドーム状の文様が入るが、実際はドームはなく礼拝堂の建物は正にカアバの様な直方体の形状である。通常の日々の礼拝でも、沢山の人々が礼拝堂内には入らずに、中庭で礼拝をしているのが見える。国立競技場に沿って中庭が造られているため、緩くカーブの続く、美しいフォルムのアーチで造られた回廊が続く。ミナレットは1本、中庭の一番端の重厚な巨大アーチのゲート側に建つ。完成は1968年、バングラディシュ独立前の東パキスタン時代の建築であり、設計はパキスタン人建築家の故Abdulhusein Meheraly Thariani氏。

Sultan Ismail Mosque

Muar, Malaysia : ムアル・マレーシア  ジョホール州には過去、統治していたスルタンがイギリスと強く結びついており、その後の植民地時代を通じて西洋建築の技術を取り入れた建築物が多くある。ジョホール州境手前に近いムアルに街を代表する大きなモスクが2箇所あるのだが、このモスクも、また Sultan Ibrahim Jamek Mosque と呼ばれるモスクも英国植民地時代を彷彿させる西洋建築とイスラーム建築が融合したデザインで造られた。街を流れるムアル川を挟んで、どちらもなぜかほぼ同じような構造である。寄棟造りの屋根と西側面に大きなドーム、反対側の東側面に細い柱で支える四角形のバルコニーと窓のあるミナレットと、一見ではパーツごとの区別は難しいくらい似ている。礼拝堂内部はアーチや柱頭に西洋建築らしさも感じるが、マレーやアラブの文様なども取り入れている。大きな木製の彫刻が施されたミンバルが独立して立っており、キブラ壁にある凹みをもつ形状のミフラーブはない。その背後にはブロークン・ペディメントで装飾された星の文様入りのドアがある。ドアの裏は外から見ると側壁の大きなドームのある半円形の部屋なのだが、特に部屋に何か宗教的な機能があるようでもなかった。寄棟造りの屋根なので、天井は外から見る限り普通の屋根だが、ドームは礼拝堂中心上部にある。

Toli Masjid / Mosque

Hyderabad, India : ハイデラバード・インド  ハイデラバード郊外に建つ、ゴールコンダ王国時代のインド・イスラーム建築の集大成のような美しいモスクである。規模としては市内中心の巨大な Makkah Masjid に比べれば大きくはない静かなモスクであるが、ファサードの5個のアーチと重厚な両端のミナレット、アーチ上部の漆喰の繊細な欄干や幾何学文様のスクリーン状の装飾など訪れる価値は非常に大きいと思う。モスクは嵩上げした長方形の台座に建ち、中庭に清めのための長方形の水場がある。内部の礼拝堂の天井は長方形で、その奥のミフラーブとは更に3個のアーチで区切られている。ドームはなく、ドームを模したような平面の装飾が見られる。

Old Friday Mosque

Malé, Maldives : マレ・モルディブ  ディベヒ語では「Hukuru Miskiiy」と呼ばれており、モルディブ最古のモスクであり、マレの史跡となる歴史建築でもある。珊瑚石(石灰岩)でできたクリーム色の壁と石彫り、内部の緻密な深い茶色の木彫り、灯台のような形の太い円柱状の縞模様のミナレットと、特徴のある要素をもつ。モルディブの海を訪れる際、マレ市内を観光で巡る機会もあまりないかとも思うが、歴史建築に興味があるのならモスクの天井や柱や壁、ミフラーブ等のデザインはなかなかの見どころではないかと思う。修復とメンテナンスされているので外見からはあまり古さは感じないが、細部からは十分に長い歴史を感じられる。白い中庭には墓地と幾つかの歴代スルタンの霊廟が並び、モスクの礼拝堂は段々になった金属製の屋根の細長い建物である。起こりは1153年にスルタンであるMohamed Ibn Abdullahによってモルディブで初めてのモスクが造られ、その後現在のモスクの原型の建造が1656年に開始した。円柱状の大きなミナレットは1674年に完成し、以降モスクは幾たびか改装・修復されて今に至る。

Bait Ur Rouf Mosque

Dhaka, Bangladesh : ダッカ・バングラデシュ  ミナレットやドームの無い、レンガを積み上げた現代建築のモスクがダッカ郊外にある。建造されたのは2012年、当時ではイスラームの伝統的な意匠を敢えて用いない、モダンでミニマムなデザインのモスクの先駆けであったであったと思う。レンガは積まれた壁の部分と、1段置きに斜めに隙間を作って入れ込んでいる部分があり、そこから光と風を取り入れる。モスクの礼拝堂は角度のついた正方形で、その周囲は円周で囲まれており、その外側をさらに外壁の正方形で囲んでいる。光と風は外壁からだけでなく、内部の湾曲した中庭状の吹き抜けと天井の4隅からも採られているので、中はレンガに囲まれた外側から見るよりだいぶ明るい。採光と通風も、できるだけ自然の力を利用しようとしているのがわかる。天井はドームは無いのだが台座上の天井があり、ランダムに開けられた丸い穴と前述の4隅から神秘的に光が注ぐ。ミフラーブは通常のモスクにあるような凹みはなく、キブラ壁にレンガで湾曲した壁に1本の隙間を作り、そこから直線の光が入るだけである。デザインはバングラディシュ人の女性建築家であるMarina Tabassum氏で、このモスクでアガ・カーン建築賞を受賞した。バングラディシュ国内で同じようなコンセプトでモスクや他建築のデザインもしており、レンガを積んだミニマムな美しい建築を見ることができる。