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Jamae Mosque (Chulia Mosque)

Singapore, Singapore : シンガポール・シンガポール  シンガポールのチャイナタウンの真ん中に2本のミナレットが目立つモスクが建っている。ミナレットは角柱型で、頭頂部には左右とも玉葱型ドームが載っている。周囲はショップハウスが立ち並ぶ、絵に描いたような中国系住民の世界であるが(これはシンガポール全体的にでもある)1ブロック向こう側にはヒンドゥー寺院が建ち、他民族国家らしい立地だ。元々は他あるシンガポールの古いモスクと同じくタミール系インド人ムスリムの移民が造ったものである。門は狭く、隣は道路を隔てる塀とブロック両端はショップハウスがあるため、敷地はあまり大きく見えないが、実は随分と奥深く、中に入るまではそれに気が付かなかった。礼拝堂はオレンジ色の瓦屋根のコロニアル風で、アーチの並んだ平屋建て。天井はフラットでドームはない。礼拝堂は大きく区切られていて、訪れた時は手前側で説教中で沢山の礼拝者が集まっていたが、奥のミフラーブのある側は使われていなかった。内装は全体に薄い緑色で、列柱が並ぶ。ミフラーブは鋭角の三角アーチの変わった形をしている。

Tuanku Mizan Zainal Abidin Mosque (Iron Mosque)

Putrajaya, Malaysia : プトラジャヤ・マレーシア  銀色に鈍く光るドームが無ければモスクであることもわからないかも知れない。まるでスタジアムのような全景をもつ巨大建築で、全体の構造の約70%を鉄が占め、「鉄のモスク」の異名をもつ。規模としてもマレーシアのモスクではシャーアラムの Sultan Salahuddin Abdul Aziz Shah Mosque 、通称ブルーモスクの次の大きさで最大2万3千人を収容するという。地上からはよく構造が見えないので、上階の庭園に上り、ファサードを真正面から見据える。繰り返すアーチと鉄のリブ・ヴォールト状の梁が絡みあうのはなかなか格好いい。設計はマレーシアの建築事務所のKumpulan Senirekaで近隣のPutra Mosqueも設計している。外見の特徴は他にもミナレットが無いことで、付き添いのガイドの青年によれば、もはや伝統の意匠に従わず現代の様々な要素、輸入した素材や技術でモスクを創り上げたとのことであった。ミフラーブは巨大なガラスからできており、ドイツから輸入されたものである。礼拝堂内部は装置に頼らない自然の換気を取り入れていて、涼しい風が循環しており、過ごしやすい。ガイドはマレーシア人ではなくガーナからの移住者で完璧な英語でユーモラスな建築やイスラームの解説をしてくれて、滞在時間を面白く過ごせたのでここに礼をしたい。

Kampong Pandan Mosque

Kuala Belait, Brunei  : クアラブライト・ブルネイ  ブルネイの石油開発の街であるSeriaから、国境の街Kuala Belaitへ向かう途中に巨大なモスクが建つ。玉子を切った形状をしたメインドームとアラブ風の2本のミナレットが遠くからも目立っていた。礼拝堂の4隅とエントランス上にドームの載った小さなミナレットが幾つも重なる。全体から見るとアラブ様式ではあるが、マレーシアやインドネシアのモスクにあるような斜面と8角形の台座でドームを支えており、マレー様式との折衷も見られる。ドーム内側は暗く線状の模様がかすかに見えたが、ほぼ装飾はないようだった。このデザインは、なぜかここからだいぶ離れた、バンダルスリブガワン首都側にあるPerpindahan Lambak Kanan Mosqueと内装も含め瓜二つである。事情はよくわからないが、単純にコピーして造っただけのようである。外装のメンテナンスには若干手が足りないようで、ドームが煤けてしまってはいるが、林立するミナレットのおかげでマッシブな印象を残し、周囲を囲む池と深い緑の樹々に映えている。池には鰐に注意の看板もあるところ、水トカゲが出てきて少し驚いてしまった。セリアやクアラブライトと、石油関連に興味があるか、国境越えでくらいしか来ることのなさそうな地域であるが来る機会があれば、訪れると面白いと思う。

Duli Pengiran Muda Mahkota Pengiran Muda Haji Al-Muhtadee Billah Mosque

Bandar Seri Begawan, Brunei : バンダルスリブガワン・ブルネイ  バンダルスリブガワンの水上家屋群にあるローカルモスクでブルネイ・ダルサラーム国のAl-Muhtadee Billah皇太子の名を冠している。モスクは実際は陸側に建造されているが、この集落はKampong Tamoi Tengahと呼ばれる場所で、ツーリストが頻繁に訪れる市街地の対面側にあるボートで渡る側ではない。著名な Omar Ali Saifuddien Mosque の横の河向こうに横へと広がる水上家屋群であり、日中は出歩く人もまばらな静かな地域であるが、なかなか立派なモスクである。近隣のマレーシア・サラワク州で見られるような、伝統家屋建築を模したであろうピラミッドのような段差のついた屋根をもつ。塔頂部にはグリーンのドームが映え、4隅には4本のミナレットが聳える。モスクの庭は円形に造られて、周囲をぐるりと回廊が巡り、8本の通路でモスクへアクセスするデザインになっている。

Sultan Ibrahim Jamek Mosque

Muar, Malaysia : ムアル・マレーシア  ムアル川沿いに建つ、寄棟造りの屋根とイギリスの西洋建築が融合したコロニアル風のモスクで、意図は不明だが対岸の Sultan Ismail Mosque はこのモスクの1887年の完成の後、相似のデザインで建造されている。建物側面にせり出したキューポラの載った大きなドームは、モスクというよりも植民地時代の政府関係の庁舎にでも使われるような美しいデザインで、当時のジョーホール州のイギリスとの結びつきを感じる。ミナレットも独特で、正方形のバルコニーに円柱状の塔のような西洋風のデザイン造られた。対岸のモスクとの大きな違いは礼拝堂上部の天井のドームの有無で、こちらのモスクには無く、天井はフラットである。浄め(ウドゥー)を行う水場もまた独特で、天井に円形の吹き抜けが造られ、見上げると空とミナレットが目に映る。対岸と同じくメッカの方角が側面の大ドームになるが、キブラ壁にミフラーブの凹みもないため、ガイドは無いが金細工の大きなミンバルが真ん中に立つ。

Ash Shaliheen Mosque

Bandar Seri Begawan, Brunei : バンダルスリブガワン・ブルネイ  首都バンダルスリブガワン郊外の丘陵地に建つムーア様式のモスクで、サウジアラビアの Quba Mosque の再建や King Saud Mosque の設計をした巨匠Abdel-Wahed El-Wakil氏によるもの。モロッコのモスクにあるような水場や中庭の噴水のタイル使い、スペイン・アンダルシアのメスキータにあるような赤白のストライプのアーチの列柱、ムーア式の多弁アーチのミフラーブと、東南アジアでは異彩を放つエキゾティックなスタイルだ。外見は現在建築風のシャープなカットに緩いカーブを合わせ、3段の半円の格子窓が2列並ぶ独特のデザインで、現在は鳥よけなのか格子にネットがかけられてしまい、それが少し残念である。エントランスをくぐると開閉式のガラス天井のある中庭があり、さらに礼拝堂内に入って見上げると、アーチの列柱によって分割された幅のある細い長方形の礼拝室、2列3段の半円の窓と2個のドームと、外から見えた窓のデザインが内部でどうなっているのかがよくわかる。

Sultan Abu Bakar State Mosque

Johor Bahru, Malaysia : ジョホール バル・マレーシア  重厚な英領コロニアル建築のモスクが、シンガポールとの海峡を見下ろす小高い丘に建っている。寄棟造りの大きな屋根をもつ礼拝堂にメインドームはなく、天井はフラットである。礼拝堂は長方形で左右対称であるが、建物自体は庭を前から見て左側が長い。ミナレットは4本あり、うちメインの2本はファサードと裏庭の側玄関の礼拝堂に張り出している。大きなアーチで車寄せを造り、その上に小さなドームの載った8角形のミナレットが建つ。最上階には丸い窓、ドームには冠のようにキューポラが載り、ミナレットらしかなるイギリスの時計台風の荘厳なデザインであるが、インドのムガール・ゴシック建築の折衷も感じられる。礼拝堂への訪問はできなかったが、開いたドアから金色の天井を少しだけ見ることができた。名称となったSultan Abu Bakarはイギリスのビクトリア女王と関連が深く、その治世である、ビクトリア時代に影響された建築がジョホール州に多く造られており、このモスクもその影響下にある。その名を冠したモスクが完成したのは1900年のことであるが、本人は完成を待たず滞在中のイギリスで亡くなっている。

Sultan Ismail Mosque

Muar, Malaysia : ムアル・マレーシア  ジョホール州には過去、統治していたスルタンがイギリスと強く結びついており、その後の植民地時代を通じて西洋建築の技術を取り入れた建築物が多くある。ジョホール州境手前に近いムアルに街を代表する大きなモスクが2箇所あるのだが、このモスクも、また Sultan Ibrahim Jamek Mosque と呼ばれるモスクも英国植民地時代を彷彿させる西洋建築とイスラーム建築が融合したデザインで造られた。街を流れるムアル川を挟んで、どちらもなぜかほぼ同じような構造である。寄棟造りの屋根と西側面に大きなドーム、反対側の東側面に細い柱で支える四角形のバルコニーと窓のあるミナレットと、一見ではパーツごとの区別は難しいくらい似ている。礼拝堂内部はアーチや柱頭に西洋建築らしさも感じるが、マレーやアラブの文様なども取り入れている。大きな木製の彫刻が施されたミンバルが独立して立っており、キブラ壁にある凹みをもつ形状のミフラーブはない。その背後にはブロークン・ペディメントで装飾された星の文様入りのドアがある。ドアの裏は外から見ると側壁の大きなドームのある半円形の部屋なのだが、特に部屋に何か宗教的な機能があるようでもなかった。寄棟造りの屋根なので、天井は外から見る限り普通の屋根だが、ドームは礼拝堂中心上部にある。

Al-Jabbar Grand Mosque

Bandung, Indonesia : バンドン・インドネシア  バンドン出身の建築家、州知事でもあるRidwan Kamil氏渾身の作となる巨大モスク。途中工期の中断もあり、外装が完了してからもなかなか工事は進まず5年を費やして完成した。礼拝堂だけで約10,000人を収容する。氏の設計したモスクはバンドン郊外のキブラ壁を取り払い、グレイのブロックを積む無機的な構造で話題になった Al-Irsyad Mosque があるが、他にもおよそモスクには見えないモスクをデザインし建造していることでも話題である(最近のモチーフは花や折り紙などであった)。このAl-Jabbar Grand Mosqueもインスピレーションは魚の鱗とのことで、巨大な三角形の庇と菱柄の段差のついたガラスパネルのモチーフをドーム状に重ねた壮大なデザインである。モスクは貯水池の中にあり、礼拝者は入場と出場に分かれた2本の橋でアクセスする。鋭角の4本のミナレットは池の水中から突き出している。文様は幾何学的なイスラーム文様が基本的に使われているのだが、鱗の庇の裏側だけはBatik Megamendungと呼ばれる雲柄が使われており、氏の郷土愛からなのか。訪れたのは日曜日のせいか、礼拝者が詰め掛けており、中庭の外周の回廊ではたくさんの人々が座り込んでくつろいだり食事を取っていた。

Bogor Grand Mosque (Al-Mi'raj Grand Mosque)

Bogor, Indonesia : ボゴール・インドネシア  ジャカルタ郊外のボゴール市は街の中央に大きな植物園があり、モスクは駅周辺の繁華街からはその公園を越えた高台に建っている。モスクの敷地は大きく中庭が取られ、中庭を挟んで2棟の建物が建っているのだが、メインドームと2個の小ドームを持つ礼拝堂にはミナレットはない。構造は少し変わっていて、礼拝堂はアーケード状の回廊で別棟と繋がっており、その別棟は下層がイスラーム開発研究ボゴールセンターの事務所などに使われ上層がミナレットになっている。ミナレットは台座の長方形から8角形になり、段々に細くなっていく。設計はジャカルタの Istiqlal Mosque を設計した建築家Frederich Silaban氏であるが、モスクの原型は大規模に改築されて現在は異なっているようだ。礼拝堂は2層で、金のカリグラフィーを纏うコの字のバルコニーと金で装飾された大きなミフラーブが目に入る。バルコニーの床下に当たる部分は8角の星をモチーフで繰り返し装飾されている。 ロケーション:ボゴールはジャカルタ近郊の街でジャカルタ市内のJakarta Kota駅からManggarai駅経由のKRLコミューターのBogor Lineに乗って1時間半。徒歩では駅を降りて、繁華街を抜けると大きな正方形状の植物園があり、迂回しながら歩くのと工事で道が寸断されていたりと1時間程かかった。途中で植物園にも寄っているのでモスクまで徒歩で来てしまったが、ボゴール駅からAngkotと呼ばれるミニバスもありモスクの前まで行くことができる。 訪問:モスク入口のカウンターで門番に確認、英語が通じなかったが身振りで伝えた。 撮影:外観・内装ともに制限なし。ドーム直下まで撮影可能。

Mukdahan Central Mosque

Mukdahan, Thailand : ムクダーハーン・タイ  タイ東北のメコン川沿いにある中都市ムクダーハーンにあるこの県内で初めて、唯一のモスクである。街はタイ東北のイーサーンと呼ばれる地域にあり、県内の人口は仏教徒がほぼ全体を占めている。それに続いて少数のキリスト教徒と僅かなムスリムがいるが、やはりモスクの建設への反対運動があり紆余曲折の後、2019年に完成した。玉葱型のグリーンのドームに2本のドームの載った角柱型のミナレット、尖塔アーチのポルティコと端正なデザインでタイ南部のムスリムの多い地域にもありそうな雰囲気である。なぜここにと思って調べてみると、メコン川対岸の経済特区のあるラオス・サワンナケートへのゲートウェイでもある街なのでムスリム投資家の便宜を図りたいとのことのようである。東北は前述の通りムスリムは少なく、県内にモスクは無かったため、礼拝場所としてそれを集約できることもあるだろう。

KLIA Sultan Abdul Samad Mosque

Selangor, Malaysia : スランゴール・マレーシア  クアラルンプール国際空港(KLIA)と市内を結ぶバスに乗るとちらりと見えて過ぎ去っていくのだが、際立った配色の大きなドームが記憶に残っていた。空港施設の一部として造られた正に空港モスクとしての立ち位置なのであるが、空港のターミナルからはだいぶ遠く離れていて、KL市内からは車で気軽に訪れる場所でもなくどんな人が行くのであろうかと思い訪ねてみることにした。モスクに着いた時点では、駐車場には車がたくさん止まっており、また大勢のアラブ系観光客の礼拝者が団体でモスクのエントランスにいて、観光バスも何台か止まっていた。車は地元の礼拝者か空港関係者であろうか、それ以外にも観光ツアーで自国への帰路途中に、礼拝の立ち寄りに利用されているようである。完成は2000年、名称はスランゴール州の故第4代スルタンの名から取られた。花が咲き乱れる庭園のような庭から、両端に2本のミナレット、正面のエントランス上にサブドームと、礼拝堂頭上に大きなメインドームが見える。メインドームは明かり取りのガラスが黄色い植物文様で縁取られ、頭頂部はターコイズの色の格子のパターンで飾られており、その台座は正方形をずらして重ねたようなイスラーム式の八芒星をしている。エントランスを入りそれを抜けると、円弧型に切り取られた空と屋根のついた回廊が突然現れる。中庭の向こうに先ほど外庭から見たメインドームがまたもう一度見え、視覚的な効果としても面白いのだが、実は空から見ると前述のドーム台座の「星」と弧の「月」が組み合わさったデザインになっている。航空機に乗って上空から眺めた姿をイメージしていたのだろうか。ドームの明かり取りの内側はステンドグラスになっており、透過するカラフルな光が白い荘厳な礼拝堂を鮮やかに照らしていた。

Al-Azhar Great Mosque

Jakarta, Indonesia : ジャカルタ・インドネシア  アラブ様式でデザインされ、中心に玉葱型のメインドーム、正面向かって右に1本の頭頂部にドームの飾りをつけたミナレット、ミナレットの無い左側には飾りの小さなドームがある。また、メインドームは四角形の台座に乗り、角に立つ4本の先の尖った細い塔で囲まれている。際立った装飾は殆どない、シンプルな外観である。礼拝堂は2階にあって、正面と左右の重厚な壁のある階段を使って上る。階下は多目的ホールがあり、訪問時は結婚式をしていた。完成したのは1958年と古いがメンテナンスされており、青空に純白の美しいドームが映える。教育財団が設立者であるため、モスクも教育機関としての機能も合わせ持っており、現在、モスクの敷地には大学や高校が立ち並んでいる。礼拝堂は1層で、アーチ型の窓が4方に続く。全体に緑色と茶色を基調とした落ち着いた内装だ。ドームはすぐ上に見上げることができ、淡い緑色で彩られ、明かり取りの窓から入る光がカリグラフィーを照らす。

Haji Muhammad Salleh Mosque

Singapore, Singapore : シンガポール・シンガポール  シンガポールの高層ビルが立ち並ぶビジネス街Shenton Wayが、巨大なコンテナ埠頭の手前でKeppel Rdにぶつかる辺りに小さな山がある。正確には小高い丘のようなものなのだが、Mount Palmerと呼ばれるこの山はシンガポールの市街地が途切れたはずれに突然現れる。それだけでなく、麓にモスクとその上に霊廟が建立されているという商業都市の都会ではなさそうな珍しい場所である。全体でHaji Muhammad Salleh Mosqueとは呼ばれるが、ドームのあるモスクに見えるにぶく光る建物が廟で、崖下のような場所に建つ白い建物がモスクである。隣には高速道路が走っており、山頂が同じくらいの高さになるようだ。モスクのある麓から廟へ行くには長い階段を上り、開け放れたドアをくぐると小さな何もない小部屋があり、そのカーテンの奥に廟と頭上にドームが見える。山頂で祀られているのは、Habib Nohと呼ばれたシンガポールのムスリムコミュニティ間で信仰される1866年に亡くなった聖人のひとり。モスクの名であるHaji Muhammad Sallehはモスクの原型を造ったHabib Nohの友人の名前である。モスクの礼拝堂には時間によるのであろう、人はいなかったが、この小さな廟には沢山の人が座り込んで、色とりどりの蘭の花で飾れれた聖人に祈りを捧げていた。モスク側にはドームがなく、屋根を支える白い柱と柱頭の金色の装飾に木製の梁と筋交いの武骨さが相まって凛とした印象だ。

Madinatul Islam Mosque

Trang, Thailand : トラン・タイ  タイ南部の地方都市トランに新しく建造された、正統派アラブ様式とでも言えるような整ったデザインのモスク。2020年の公式の完成しモスクとしてオープンとは言うものの、当時はドームの装飾は未だなく、それ以降徐々に今の姿となっていった。ミナレットは角型の1本、アーチの並ぶファサードとエントランス頭上に3個のドームが並んでいる。礼拝堂の両翼向かって右側に4個のアーチ、左に5個のアーチの回廊があり左側が非対称に斜めに伸びている。トランは時折このブログでも紹介するタイ南部の比較的開かれた都市と同じく、商業に携わってきた中国系人口が多く市中にモスクは見かけない。県の人口中約18%がムスリムとのことで郊外にはモスクは多くあり、行政主導の大きな規模な県立中央モスクも郊外に建設しているが完成まで膠着状態でそれを待たず、こちらのモスクが先に完成した。このモスクも元々は街のはずれの小さな古いモスクであったが、増える礼拝者のための場所がなく各所からの支援を受け完成しており、画像では少し見えにくいがエントランスの木製ドア上、アーチ越しにはクウェートの財団であるKuwait Awqaf Public Foundationのプレートが見える。エントランス上のドーム内部に装飾はなく真ん中のメインドームにのみシャンデリアが釣り下がる。礼拝堂の上部はドームは無いため、天井はフラットで全体が至ってシンプルである。写真を撮っていると礼拝者に話しかけられたのだが、なんと遠くトルコから来たとのことだった。トラン駅前のカレー食堂の店主はアラブ系であったり、ハラール食堂はマレーシア語でSelamat Datang=ようこそと看板に書かれてあったり、イスラーム世界は小さな街でも繋がっていると思わせられた。

Istiqlal Mosque

Jakarta, Indonesia : ジャカルタ・インドネシア  2022年現在で東・東南アジアで最大のモスクであり、通常の使用状態で12万人、それ以上で最大20万人を収容する。この収容人数の越える巨大モスクの建造はなかなか無いだろう。インドネシア独立後、初代スカルノ大統領の国威発揚の命により、国立モスクとしてコンペティションで選ばれ1978年に完成した。白い巨大メインドームと小さなサブドームの2個をもつ。設計はジャカルタがまだバタビアと呼ばれていた時代から、オランダ人に師事していたインドネシア人建築家の故Frederich Silaban氏。本人は元来キリスト教徒の多い北スマトラのバタック族の出身で、やはりプロテスタントであった。モスクの名称はアラビア語のIstiqlaal=独立の意味から取られている。モスクの建つ場所は正にジャカルタの中心にあるMerdeka Squareと呼ばれる巨大な広場の斜め横に位置し、Merdekaはこのモスクと同じく、インドネシア語で独立を意味している。この壮大な現代建築のモスクは打ちっぱなしのコンクリートとステンレス鋼と大理石で造り上げられている。建築様式はドームやミナレットだけでなく、反復する形状などのイスラームの宗教的要素は勿論あるのだが、外観だけで見る限りミニマムであり、ブルータリズムの影響が大きいと思う。最近のインドネシアでは民族的要素が少ない実験的なデザインも増えてはいるが、国家を揚げて建造した巨大なモスクがともするとで強固な印象でもあるのは、独立の意思の強さでもあったのであろうか。礼拝堂は余りにも巨大で、天井はステンレスで装飾された12本の柱で支えられ、ドーム直径は45mもある。キブラの方角を除く3方を5層の回廊で囲まれていて、外部とは壁がなく柱の間は孔のある幾何学文様を繰り返した金属の装飾が外気が循環させている。そのために、空調がなくとも回廊を歩くとひんやりした空気を感じる。内部は外観に比べると、イスラーム的なデザインの要素は柱の台座や回廊のシャンデリアなどに感じられる。高さ約96メートルのミナレットは1階の回廊の端から天に向かって立っているので、長方形の穴で型取られた装飾もよく見える。

Al-Islah Mosque

Singapore, Singapore : シンガポール・シンガポール  モスクはシンガポールのニュータウン、Punggol地区の公営集合住宅(HDBフラット)群の中に忽然と現れる。Punggolは元々マレー系が入植した村から始まっており、古いモスクがあったのだが取り壊されて、2015年にこの新しいモスクが完成した。緑に囲まれていて全貌がつかみにくいのだが、一番大きな礼拝堂、教育部門と全体の構造から少し斜めに角度がついた管理部門の3棟が繋がっている。最近のシンガポールで多く見かける現代イスラーム建築のモスクと共通して、ミナレットは象徴としての細い尖塔型のデザインである。このような現代風のモスクではドームは最近のシンガポールでは省かれていることが多いのだが、実はここには従来の天井を見上げるようなモスクのドームとは違う、こちらも象徴としてのドームが屋上にあってそれが見どころでもある。シンガポールの建築事務所であるFormwerkz Architectsによって設計された。モスクは「開放性」を銘打っており、物理的にも開放的で広く取られたエントランスからから障壁なくまっすぐに礼拝の方角へ向かう。礼拝堂は格子のスクリーンを通し光が差し風が流れて、屋外と室内の境界を感じさせない。一番奥のキブラ壁にはカリグラフィーが飾られ、上方は高く吹抜けになっていて空気の流れを作る換気塔のような役目を果たしている。ドームへは、1階からエレベータを上り教育部門の棟から礼拝堂の上層にかかる連絡通路を渡って向かう。礼拝堂の屋上が公園のようなコミュニケーションスペースになっていて、その1区画となる。中にはベンチがあり、その上に屋根状のドームがあるのだが、完全に覆っている構造ではない。ここも1階と同じように格子状にデザインされて、光や風が内部を通ることができる。今までモスクへ行くたびに見上げていたドームではなく、その中に入ることに意味を持たせているのであると思う。

Cut Meutia Mosque

Jakarta, Indonesia : ジャカルタ・インドネシア  旧オランダ植民地時代のジャカルタがバタビアと呼ばれていた時代に造られたダッチコロニアル建築で、そのオフィスビルをモスクへ転用したという変わり種のモスクである。そのため、一見はその象徴となるような半球状のドームやミナレットはなくモスクにはなかなか見えないが、屋根の頭頂部に月の紋章と四隅の柱には玉葱型の装飾がついていることに気がつく。設計はオランダ人建築家のPieter Adriaan Jacobus Moojenで、1912年に完成した。元々は現在のモスクがあるGondangdia地区の開発のために設立されたMoojen本人の建築事務所であった。当時の社名のN.V. de Bouwploegの名は建物側面の外壁に「NVDE BOWPLO」とおそらく長い名称を頭字語として簡素に変化させたのではないかと思うが、書き残されている。吹抜けになった高い天井はデザインや採光だけでなく、中東の湾岸諸国都市で見られる外気を取り入れ空気を循環させる採風の効果もあるそうだ。正面から見ると段になった礼拝堂の入り口と2階への階段が左右対称にあり、その上に2階の外バルコニー、奥に塔状になった高窓のある吹き抜け上の屋根が続く。室内は吹き抜けを見上げると、カリグラフィーの入った2階回廊のアーチとバルコニー、シャンデリア、高窓と格子状の天井と続く。様々な要素が一体となって飛び込んでくるのだが、手すりと天井は同じクリーム色でまとまっていて目に眩しくない。バルコニー正面が落ち込んでいるのはその構造から想像できるように、1階へ向かう階段を取り除いてしまったからである。このモスクの礼拝堂での最大の特徴は、オフィスビルを転用したためにメッカの方角に向かう礼拝の軸が45度ずれてしまっていることだ。ミフラーブ様の凹みと説法台となるミンバルは建物の構造に合わせ入口から見て真正面にあるのだが、実際の礼拝の方向は建物に対して斜めのため、絨毯のラインはキブラを示す壁はなくともメッカへ向けて合わせてある。礼拝は礼拝堂の構造に対して斜めの方向に向うのである。青銅色の角型ドーム状の屋根、白い壁、2階のオレンジ色の瓦屋根、アーチの窓やバルコニーの装飾、とバランスの良い端正な造りのコロニアル建築と、改装された内部のイスラームの意匠の融合は見事であると感じ...

Betong Central Mosque

Betong, Thailand : ベトン・タイ  空色のドームは色褪せてしまっていたが、そのモスクはタイの南、最果ての地に孤高に佇んでいた。緑濃いタイ深南部ヤラー県の山中に忽然と現れる都市ベトン。意外にもイスラーム人口が圧倒的に多いこの地域の中で、珍しく際立って中国系タイ人が多い街だった。それでもあと数kmでマレーシアとの国境ということもあり、ムスリムもやはり多く住んでいる。タイで見かける多くの中規模のモスクは重厚な造りの印象があるのだが、このモスクはドームや外壁の色調、白いアーチの回廊、礼拝堂は正方形でミフラーブのあるキブラ壁を除く3方にサブドームを頂くポルティコを配するなど、全体のバランスに気品を感じる。どちらかというと、マレーシア側のプルリス州やケダ州にあるモスクのデザインに近いのではないかと思う。タイ側からみると辺境とも言える場所になるのだが、マレー文化圏側から見るとこのような端麗なデザインのモスクがこの街にあるのも頷ける。ミナレットは1本でアーチを嵌め込まれたバルコニーに小さなドームを載せ、正面から見ると奥側にある。内装は白く、ドーム外装に使われている同じ空色を差し色に使用している。ドーム内部に装飾はなく、白色の無地。ドーム台座と天井近くに連なった丸い窓は、青や黄色に彩られて礼拝堂の中を照らしていた。

Sultan Abdul Samad Jamek Mosque

Kuala Lumpur, Malaysia : クアラルンプール・マレーシア  クアラルンプール市内の中心にあり、市の名前の語源になった二つの河の合流点に建つ。歴史的建築物としてもクアラルンプールのハイライトとして必ず紹介されている有名なモスクである。最近のマレーシアの観光スポットになるようなモスクらしい派手さはないのだが、周囲は英領マラヤ時代の建築が多く残る地域で訪れる価値は十分にある。1909年に建造され、クアラルンプールで最初の大型なモスクとも言われているのだが、比較的新しくも感じるのはおそらくクアラルンプール自体が英領時代に発展を遂げたからであろう。設計したイギリス人の名建築家であるArthur Benison Hubbackはムガール様式をベースにしたインド・サラセン様式にムーア様式を折衷させたデザインを取り入れることでも知られている。このモスクでも、玉葱型ドームの形状や3個のドームと両端の背の高い2本のミナレットとの構図がムガール調であったり、外壁にストライプ模様やアーチが馬蹄形のムーア調を組み合わせたりと、手の込んだデザインを見せている。レンガの色が薄くドームとミナレットがある真ん中の礼拝室のある建物が原型のモスクで、渡り廊下で繋がったレンガの色が濃い建物は増築部分となる。八角形のドームは植物文様の入った天井で塞がっているような状態でその内側を見ることはできなかった。ドーム台座に馬蹄形アーチをかたどった灯り取りの窓がはめ込まれていたり、ミフラーブも馬蹄形アーチ型をしているなど、内部も外装と同じような趣向のデザインを施されている。