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Al-Hasan Mosque

Muharraq, Bahrain : ムハラク・バーレーン  バーレーンでは珍しいブルーのドームと尖った鉛筆型のミナレットを持つオスマン様式のモスク。海が近く、ミナレットを舞うのは中東のモスクといえばハトであるが、ここではカモメという島国バーレーンならではの姿を望む。市内のAl-Fateh Mosqueに続き公式に開放されたモスクであり、限定された曜日に異教徒や観光客の受け入れをしている。モスクは2018年に完成し、訪問の受け入れを開始したのは2022年からであるが、担当のガイドによって内部を丁寧に案内をしてもらえる。設計はトルコ人建築家によるもので、伝統的なオスマン様式をモダンにアレンジしている。小ドームのある回廊部分の屋根が途切れ、テント状の屋根が張られている隙間から空が見えるのはなかなか格好いい。建物は大きくL字形に建っており正面の礼拝堂と向かって右側に事務所棟がある。礼拝堂のドアをくぐると、天井の低い礼拝室が先にあり、通常の少人数の礼拝はこちらで行われるとのこと。訪問当日もその奥にある金曜日だけに開放される大ドームのあるメインの礼拝堂とは区切られていたが、見学をすることができた。シャンデリアや絨毯などの内装もトルコのモスクと寸分たがわないが、ミフラーブはエジプトの工芸家による作品である。バーレーンで最大の大きさであるが、その緻密なモザイクの幾何学文様を目の前まで近づいて見ることができる。

KAFD Grand Mosque

Riyadh, Saudi Arabia : リヤド・サウジアラビア  モスクにはとても見えないが紛れもなく、幾何学的なデザインの現代建築のモスクである。砂漠の薔薇と呼ばれる石がモチーフとのことで、鋭角を重ね合わせた結晶のような姿をしている。周囲はKing Abdullah Financial District (KAFD)と呼ばれる超高層ビルが林立する新しく開発された金融・多目的センターで、2階建てのモスクはビルに囲まれた谷間のような場所に2本のミナレットと共に立っている。2017年に完成、斬新な設計はサウジアラビアの建築事務所であるOmraniaによるもの。少しずつ角度を変えて眺めると形を変えていくのだが、正面からよりも少し小高い場所から見る方が砂漠の薔薇の鉱物感が出ているような気がする。薄いベージュの石と最低限の光を取り入れる細い窓の外装は冷ややかな印象で、灼熱の砂漠の国での合理性も見える。この地区の礼拝の中心になっているようで、たくさんの人々がひっきりなしに礼拝に訪れていた。中東の、特にサウジアラビアのモスクは保守的な印象であって見学が許可されると思っておらず、礼拝堂の内部も見ることができたことに感謝。内部は表から見る印象よりもずっと幅があって、端までが随分と遠く見える。インテリアデザインも従来のモスクとは違う近未来的な構造で、振り返ると天井から釣り下がる2階が見える。正面にガラスの輝くミフラーブと明かり取りのガラスにはカリグラフィー、その上にはイスラーム建築で使われるムカルナス装飾を模したパネルが淡く光る。厳かな空気に圧倒され立ちすくんでしまうほど美しいフォルムであった。

Madinatul Islam Mosque

Trang, Thailand : トラン・タイ  タイ南部の地方都市トランに新しく建造された、正統派アラブ様式とでも言えるような整ったデザインのモスク。2020年の公式の完成しモスクとしてオープンとは言うものの、当時はドームの装飾は未だなく、それ以降徐々に今の姿となっていった。ミナレットは角型の1本、アーチの並ぶファサードとエントランス頭上に3個のドームが並んでいる。礼拝堂の両翼向かって右側に4個のアーチ、左に5個のアーチの回廊があり左側が非対称に斜めに伸びている。トランは時折このブログでも紹介するタイ南部の比較的開かれた都市と同じく、商業に携わってきた中国系人口が多く市中にモスクは見かけない。県の人口中約18%がムスリムとのことで郊外にはモスクは多くあり、行政主導の大きな規模な県立中央モスクも郊外に建設しているが完成まで膠着状態でそれを待たず、こちらのモスクが先に完成した。このモスクも元々は街のはずれの小さな古いモスクであったが、増える礼拝者のための場所がなく各所からの支援を受け完成しており、画像では少し見えにくいがエントランスの木製ドア上、アーチ越しにはクウェートの財団であるKuwait Awqaf Public Foundationのプレートが見える。エントランス上のドーム内部に装飾はなく真ん中のメインドームにのみシャンデリアが釣り下がる。礼拝堂の上部はドームは無いため、天井はフラットで全体が至ってシンプルである。写真を撮っていると礼拝者に話しかけられたのだが、なんと遠くトルコから来たとのことだった。トラン駅前のカレー食堂の店主はアラブ系であったり、ハラール食堂はマレーシア語でSelamat Datang=ようこそと看板に書かれてあったり、イスラーム世界は小さな街でも繋がっていると思わせられた。

Istiqlal Mosque

Jakarta, Indonesia : ジャカルタ・インドネシア  2022年現在で東・東南アジアで最大のモスクであり、通常の使用状態で12万人、それ以上で最大20万人を収容する。この収容人数の越える巨大モスクの建造はなかなか無いだろう。インドネシア独立後、初代スカルノ大統領の国威発揚の命により、国立モスクとしてコンペティションで選ばれ1978年に完成した。白い巨大メインドームと小さなサブドームの2個をもつ。設計はジャカルタがまだバタビアと呼ばれていた時代から、オランダ人に師事していたインドネシア人建築家の故Frederich Silaban氏。本人は元来キリスト教徒の多い北スマトラのバタック族の出身で、やはりプロテスタントであった。モスクの名称はアラビア語のIstiqlaal=独立の意味から取られている。モスクの建つ場所は正にジャカルタの中心にあるMerdeka Squareと呼ばれる巨大な広場の斜め横に位置し、Merdekaはこのモスクと同じく、インドネシア語で独立を意味している。この壮大な現代建築のモスクは打ちっぱなしのコンクリートとステンレス鋼と大理石で造り上げられている。建築様式はドームやミナレットだけでなく、反復する形状などのイスラームの宗教的要素は勿論あるのだが、外観だけで見る限りミニマムであり、ブルータリズムの影響が大きいと思う。最近のインドネシアでは民族的要素が少ない実験的なデザインも増えてはいるが、国家を揚げて建造した巨大なモスクがともするとで強固な印象でもあるのは、独立の意思の強さでもあったのであろうか。礼拝堂は余りにも巨大で、天井はステンレスで装飾された12本の柱で支えられ、ドーム直径は45mもある。キブラの方角を除く3方を5層の回廊で囲まれていて、外部とは壁がなく柱の間は孔のある幾何学文様を繰り返した金属の装飾が外気が循環させている。そのために、空調がなくとも回廊を歩くとひんやりした空気を感じる。内部は外観に比べると、イスラーム的なデザインの要素は柱の台座や回廊のシャンデリアなどに感じられる。高さ約96メートルのミナレットは1階の回廊の端から天に向かって立っているので、長方形の穴で型取られた装飾もよく見える。

KAPSARC Mosque

Riyadh, Saudi Arabia : リヤド・サウジアラビア  リヤドのキング・ハーリド国際空港と市内を結ぶハイウェイの途中、その空港寄りにKing Abdullah Petroleum Studies and Research Center (KAPSARC)と呼ばれる広大なエネルギー研究施設がある。敷地は大きく研究部門と居住区に分かれ、研究所として故Zaha Hadid氏によるハニカムが細胞のように増殖したイメージの巨大施設が建造された。また、居住区は研究者やその家族のために外部から遮断された美しく壮大で安全なコミュニティがアメリカの建築事務所HOKによって造成された。HOKは世界中の都市で空港や公共施設、超高層ビル等を手掛けており、このモスクもそれに合わせてデザインされている。居住区の細長い公園のような場所に建ち、通常のモスクのイメージとは違う黒いガラスの立方体で造られて、ランダムな幾何学文様のモザイクが透けて見える。ミナレットは独立して横に立ち、礼拝堂と同じモザイクでデザインされている。周囲には水が張られ、礼拝者は小さな橋を渡って礼拝堂にアクセスする。この黒く見える立方体は何かというと、イスラームにおける第一の聖地メッカの聖殿カアバを模したものだとのことだ。珍しく撮影中に雨が降ってしまい、後述の理由で撮り直しできないため今回は青空の下で撮れないのは残念だが、少し暗めの画像で紹介することになってしまった。実はこの場所を紹介してよいものかと迷ったことがあり、それは居住区は公共の場所でなくモスクは居住者のためだけにあるもの、ということであった。知らずに訪問してしまい管理部門のスタッフの方々に大変な迷惑をかけてしまったが心優しく対応していただき、今回特別に撮影の許可を貰えることになった経緯があったのである。美しいモスクであり、せっかく撮影したのでやはり紹介はしたいが部外者のアクセスは不可の旨をお伝えする。居住区やカフェ、モスクの案内をしてくれた男性スタッフ、多数のスタッフの方々へ、実に感謝。

Katara Mosque

Doha, Qatar : ドーハ・カタール  Katara Cultural Villageはドーハ市内中心からやや離れた、広大な総合文化施設で劇場や多目的ホール、商業施設などがあり、観光客を集めている。その施設の一部にブルー、パープル、ターコイズ、ブラウンの美しいセラミックタイルに覆われたモスクがある。モスクの名はその通り施設名から取られ、Kataraとは現在のカタールの語源である。ユニークなデザインのモスクで、特にカタールの伝統的なそれとは違っていて他ではみかけない。ほぼ全体が緻密な植物文様に装飾された直方体の礼拝堂に、3角形に突き出したアーチのエントランス、独立して立つモザイクのパターンで覆われたミナレット、礼拝堂背後のミフラーブはミナレットと同じ文様で美しく装飾されている。背後も見ごたえがあり、湾岸諸国のモスクでミフラーブまで丁寧に装飾を施されているのは珍しいと思う。またミフラーブの下面もエントランスと同じように3角形に造られていて対面でデザインを揃えている。内装もユニークで、デザインはイスタンブールの Şakirin Mosque の内装を手掛けたトルコ人女性の建築家Zeynep Fadıllıoğlu氏。トルコのデザイナーではあるけど、このモスクは様々なアラブの地方の文化とモダンをミックスするスタイルで構築したようだ。また、ミフラーブのデザインが大きな円で囲んだ金のカリグラフィーで、スタイルが日本の「書道」、と言った趣きなのが斬新。釣り下がる3重のシャンデリアのガラス球のシェイプも美しい。彫りのあるドームは9個並んでいて、小さなお椀を伏せたようなデザインなので外からでは天井のドームを見ることはできなかった。デザインの要素は多いのだが、全体を俯瞰して見ると美しくまとまっていてこれがその手腕なのかと感服。

DIFC Grand Mosque

Dubai, United Arab Emirates : ドバイ・アラブ首長国連邦  Dubai International Financial Centre (DIFC)は何棟にも及ぶオフィスタワーが連結した複合施設である。各々が連結しており、そのうちのGate Avenueと呼ばれるショッピングモールの屋上にあたる中庭に、ビルを背景に現代建築風の白いモスクが佇んでいる。まさかモールの屋上にモスクがあるというシチュエーションが分からず、訪れた時は地上の通りから周囲を探し、頭上遥か上にミナレットとそれらしき建物が見えた時は驚いてしまった。Gate Avenueのランドスケープは、世界各国で超高層建築や巨大施設を設計するイギリスの建築事務所であるRMJMが手掛けている。同じくモスクもRMJMによって設計されており、壁はガラスとそれを覆う斜めにカットされた白いパネルで覆われている。覆いはミナレットと同じく穴の開いたイスラーム文様で、アラビア半島の中層住宅建築で見かけるマシュラビヤと呼ばれる窓の覆いをヒントにデザインされたとのこと。換気と採光とプライバシーの守秘を同時に行う機構で彫刻や格子で飾られているものであるが、伝統建築を現代建築にミックスして甦らせるアイデアは面白いと思う。

Al-Rahmah Mosque

Jeddah, Saudi Arabia : ジェッダ・サウジアラビア  ヨットクラブやレストランの並ぶJeddah Cornicheにあるモスク。礼拝堂と大きなドーム、回廊のアーチは海上の杭の上にありミフラーブは海上に突き出している。完全に水面上にあり、「Floating Mosque」との名でも知られている。Jeddahの観光アトラクションの紹介でもいつも上位にあり、保守的な中東のモスクでも半ば既成事実かのような感じで観光の目的で礼拝堂内部まで訪問できるようである。海岸側から桟橋を渡るとすぐに白い正8角形の礼拝堂、1本のムカルナスが施されたモスクが見える。モスクの周囲は大きくL字型にテラスの足場が組まれていて、モスク側の内周に1本と海側の外周に時折途切れながら1本、長い回廊が2重にある。アーチの頭上には1つのスパンごとに小さなドームが並んで続いており、礼拝堂にメインドームの1個以外にその数は52個ある。テラスの上は日除けのテントも張られている。礼拝堂内部は建物本体に対してドームの直径が大きく、ドアをくぐると明かり取りの窓から照らされた大きなドームとシャンデリア、6角形の幾何学文様にカリグラフィーが描かれた装飾が目に飛び来む。礼拝堂内の窓からは、薄っすらとオレンジ色になった穏やかな海が見えるのもなかなか趣きがある。

Al-Islah Mosque

Singapore, Singapore : シンガポール・シンガポール  モスクはシンガポールのニュータウン、Punggol地区の公営集合住宅(HDBフラット)群の中に忽然と現れる。Punggolは元々マレー系が入植した村から始まっており、古いモスクがあったのだが取り壊されて、2015年にこの新しいモスクが完成した。緑に囲まれていて全貌がつかみにくいのだが、一番大きな礼拝堂、教育部門と全体の構造から少し斜めに角度がついた管理部門の3棟が繋がっている。最近のシンガポールで多く見かける現代イスラーム建築のモスクと共通して、ミナレットは象徴としての細い尖塔型のデザインである。このような現代風のモスクではドームは最近のシンガポールでは省かれていることが多いのだが、実はここには従来の天井を見上げるようなモスクのドームとは違う、こちらも象徴としてのドームが屋上にあってそれが見どころでもある。シンガポールの建築事務所であるFormwerkz Architectsによって設計された。モスクは「開放性」を銘打っており、物理的にも開放的で広く取られたエントランスからから障壁なくまっすぐに礼拝の方角へ向かう。礼拝堂は格子のスクリーンを通し光が差し風が流れて、屋外と室内の境界を感じさせない。一番奥のキブラ壁にはカリグラフィーが飾られ、上方は高く吹抜けになっていて空気の流れを作る換気塔のような役目を果たしている。ドームへは、1階からエレベータを上り教育部門の棟から礼拝堂の上層にかかる連絡通路を渡って向かう。礼拝堂の屋上が公園のようなコミュニケーションスペースになっていて、その1区画となる。中にはベンチがあり、その上に屋根状のドームがあるのだが、完全に覆っている構造ではない。ここも1階と同じように格子状にデザインされて、光や風が内部を通ることができる。今までモスクへ行くたびに見上げていたドームではなく、その中に入ることに意味を持たせているのであると思う。

Cut Meutia Mosque

Jakarta, Indonesia : ジャカルタ・インドネシア  旧オランダ植民地時代のジャカルタがバタビアと呼ばれていた時代に造られたダッチコロニアル建築で、そのオフィスビルをモスクへ転用したという変わり種のモスクである。そのため、一見はその象徴となるような半球状のドームやミナレットはなくモスクにはなかなか見えないが、屋根の頭頂部に月の紋章と四隅の柱には玉葱型の装飾がついていることに気がつく。設計はオランダ人建築家のPieter Adriaan Jacobus Moojenで、1912年に完成した。元々は現在のモスクがあるGondangdia地区の開発のために設立されたMoojen本人の建築事務所であった。当時の社名のN.V. de Bouwploegの名は建物側面の外壁に「NVDE BOWPLO」とおそらく長い名称を頭字語として簡素に変化させたのではないかと思うが、書き残されている。吹抜けになった高い天井はデザインや採光だけでなく、中東の湾岸諸国都市で見られる外気を取り入れ空気を循環させる採風の効果もあるそうだ。正面から見ると段になった礼拝堂の入り口と2階への階段が左右対称にあり、その上に2階の外バルコニー、奥に塔状になった高窓のある吹き抜け上の屋根が続く。室内は吹き抜けを見上げると、カリグラフィーの入った2階回廊のアーチとバルコニー、シャンデリア、高窓と格子状の天井と続く。様々な要素が一体となって飛び込んでくるのだが、手すりと天井は同じクリーム色でまとまっていて目に眩しくない。バルコニー正面が落ち込んでいるのはその構造から想像できるように、1階へ向かう階段を取り除いてしまったからである。このモスクの礼拝堂での最大の特徴は、オフィスビルを転用したためにメッカの方角に向かう礼拝の軸が45度ずれてしまっていることだ。ミフラーブ様の凹みと説法台となるミンバルは建物の構造に合わせ入口から見て真正面にあるのだが、実際の礼拝の方向は建物に対して斜めのため、絨毯のラインはキブラを示す壁はなくともメッカへ向けて合わせてある。礼拝は礼拝堂の構造に対して斜めの方向に向うのである。青銅色の角型ドーム状の屋根、白い壁、2階のオレンジ色の瓦屋根、アーチの窓やバルコニーの装飾、とバランスの良い端正な造りのコロニアル建築と、改装された内部のイスラームの意匠の融合は見事であると感じ