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Ljubljana Mosque

Ljubljana, Slovenia  : リュブリャナ・スロベニア  オスマン帝国の進出のためイスラームの影響が大きい旧ユーゴスラビア全体ではあるが、スロベニアは対抗するハプスブルク家の影響が大きい様である。スラブとイスラームの融合した文化のバルカンを旅してもこの国はどちらかと言うとオーストリアに近いヨーロッパ文化の一国であることを強く感じる。旧ユーゴ諸国の中ではイスラーム教徒の人口はクロアチアに次少なく、過去より現存するモスクも恐らく1箇所くらいではないかと思う。数少ないムスリムのために首都リュブリャナにモスクを建設する運動はあったが反対もあり頓挫していたが、カタールからの資金提供でようやっとモスクを含めた複合施設が完成となった。広く取られた中庭に円柱形の打ちっ放しのコンクリートのオスマン式鉛筆型ミナレットが聳え立っている。正方形の大きなモスク本体とそれを囲むように長方形の図書館や教室や事務棟など4棟が建つ。モスクの隣にはほぼ3角形(実際は台形)に見える池がある。鉄骨の菱格子でコンクリートを覆い反復するイスラームの意匠を表したシンプルで近未来的なデザイン。モスクの扉は木製で暖かに見える。直方体のモスクの天井はフラットでドームは見えないが、内部の柱の無い天井から巨大なドーム状の青い布が吊るされて宙に浮いているいる斬新な仕掛けになっている。今回は中を見学することはできなかったので残念。現代建築のモスクと伝統を融合したデザインはスロべニアの建築事務所であるBevk Perović Arhitektiである。

Vefa Kilise Mosque (Vefa Church Mosque)

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  ビザンツ様式で建造されたギリシア十字形の礼拝堂を持つ正教会建築である。原型は諸説あり不明。十字軍占拠時代にはローマカトリック教会としても使用された。正十字に造られた上部にメインドームがある。また、階段でアクセスする道路に面した表玄関と、儀式を執り行うための聖堂との間に細長いナルテックスと呼ばれる広間があり、その頭上に3個のサブドームがある。当時訪問の時点で全体に修復が完了したばかりのようで、内部はまだ塗料の匂いが残っていたのだが、メインドームはイスラームの意匠で修復されているので瀟洒な立体感のある植物文様の繰り返しで装飾されている。ナルテックス上のドームには聖人のモザイクが修復されて残っている。現在も礼拝者が集まるモスクとして使用されているのだが、漆喰で埋められたりされておらず必見。ミフラーブはメッカの方角とずれているため、窓の一部を埋められて斜めに設置されている。

Al-Juffali Mosque

Jeddah, Saudi Arabia : ジェッダ・サウジアラビア  小さなドームが幾重と連なる美しいこのモスクは、Jeddah旧市街のAl Balad地区のそばにある。Lake Al-Arbaeenと呼ばれる紅海の入り江のような地形の湖のほとりに佇み、モスクの周囲は美しく整えられた公園となっている。モスクはおよそ長方形をしており、東南の隅に2段のバルコニーのついたミナレットが1本建つ。デザインはサウジアラビアでいくつものモスクを建てた高名な建築家のAbdel-Wahed El-Wakil氏である。氏はエジプト人で、元々は瀟洒な邸宅の設計をしていたのだが、同じJeddah市内の King Saud Mosque や、Madinahの Quba Mosque の再建など一見重厚なようでもあるがシンプルで優雅なアラブのデザインを使ったモスクを造ってきた。今回の訪問では内部は見ることができなかったのであるが、ドームはエントランス上に1個、礼拝堂に5列×5列が均等に25個並び、内部は16本の列柱のアーチで支えられている。

Rijeka Mosque (Rijeka Islamic Center)

Rijeka, Croatia : リエカ・クロアチア  クロアチアのアドリア海に面した港湾の街リエカにある現代建築のモスク。カタールの援助を受けて2013年完成した。にぶく光る鋼製の独特の半球面と鋭角のカットをもつ。ドームは何個と数えてよいのか、5個のカットされたドームが組み合わされているように見える。ミナレットが無ければモスクとはわからないような、現代アートの作品風の曲線が美しいデザインである。その半球の構造そのものが巨大なドーム状の礼拝堂になっているのだ。彫刻的でもあるのは、ドームの原案はクロアチア人彫刻家の故Dušan Džamonja氏とのことで、それを基にクロアチア・ザグレブの建築事務所であるADB:Arhitektonski Dizajn Biroがデザインした。モスクは山の中腹にある高台に建ち、モスクのある広い中庭の階下にはカフェレストランがありトルコ式のお菓子や旧ユーゴスラビアほぼ全体で食べられているイスラーム系の料理などを食べることのできる。ベランダに席があり、海を臨む景色が見えるので見学の後に時間があれば立ち寄るのもよいと思う。

Fethija Mosque

Bihac, Bosnia and Herzegovina : ビハチ・ボスニア ヘルツェゴヴィナ  重厚な造りのゴシック教会かと思える実に美しい建築である。ゴシック建築の要点でもあるバラ窓と尖頭アーチのエントランスが目を引くが、立派なミナレットがしっかりと立っており、間違いなくモスクである。原型となったのはChurch of Saint Anthony of Paduaと呼ばれた、ゴシック建築のカトリック教会であり、当時クロアチア領だったこの地は1592年にオスマン帝国の侵攻を受け教会はモスクへと転用された。ボスニア ヘルツェゴヴィナとなった現在ではそのままモスクとして使用されており、1266年建造のボスニア最古のゴシック建築と言われている。屋根はオレンジ瓦の寄棟造りでモスクのファサードには前述の鉛筆型ミナレット、広場側にステンドグラスの窓があり、広場と反対側には過去に鐘楼と修道院が併設されていたが既に壊されている。こちら側は壁の色が変わっているのでおそらくその影響であろう。内装は完全にモスクになっていてキリスト教会の面影は全くなくっている。元々教会として建造されたため、天井にドームはなくフラットな状態で、バルカンの寄棟造りのモスクで見かける平面でドームを模した描画もない。当然ミフラーブのあるキブラ壁はメッカの方角を向いていないはずである。画像を見るとわかるが、おそらくミフラーブには角度をつけず、礼拝の方向だけを列を示す絨毯の線でメッカへの角度をつけているのかと思う。2階のバルコニーも画像が歪んでいるようにみえるが礼拝の方角へ角度を付けているからなのであろう。

Kalenderhane Mosque

Istanbul, Turkey : イスタンブール・トルコ  中期ビザンツ様式で建造された東方正教会建築であるが、オスマン帝国によりモスクに転用された。原型は諸説あり不明。当時の首都名であるコンスタンティノープルは一時的にカトリック教会を擁する十字軍のラテン帝国に占領されていたため、正教会からローマカトリック教会として使用もされていた時期もある。構造は典型的なギリシャ十字形で造られた重厚な礼拝堂の形状のままで、そのためミフラーブは角度をつけて設置され絨毯の列を示す線もメッカの方向に合わせて示されている。内部のメンテナンスは過去の修復後、古い状態がそのままで維持されているような状態で地味な色合いながらも荘厳な雰囲気である。漆喰で埋められてしまっているが一部フレスコ画も残っている。

Sayed Al-Shuhada Mosque

Madinah, Saudi Arabia : マディーナ・サウジアラビア  Uhud Mountainを背後に建つ巨大なモスクで15,000人もの礼拝者を収容する。2本のミナレットに1個のドーム、ほぼ長方形の端正なアラブ様式のモスクであるが、雄大な赤茶色の岩山の崖によく映える。この地は「Uhudの戦い」と呼ばれる、マッカでの布教の迫害から逃れマディーナに移り住んだムハンマドと、敵対しそれを追うAbu Sufyan率いるマッカの軍が激しく戦いあった戦地の史跡でもある。そのため、モスク自体は近年2017年に新しく造られたものであるが、多数の礼拝者が訪れる聖地となった。ムハンマドらの率いるイスラーム軍はこの戦いでは負けてしまうのであるが、その後も戦いを繰り返し最後にはイスラーム軍はマッカへ侵攻し、勝利を遂げることになる。そして、降伏したAbu Sufyanはマッカでイスラームへ帰依することになるという逸話も残った。モスクの傍には戦いの殉教者を弔う墓地と、前にはArchers' HillもしくはJabal Al-Rumahと呼ばれるムハンマドが弓兵を配置したという小高い岩の丘がある。その丘をモスクを訪れた礼拝者達が登り、戦地を眺め記念撮影をしていた。

Mukdahan Central Mosque

Mukdahan, Thailand : ムクダーハーン・タイ  タイ東北のメコン川沿いにある中都市ムクダーハーンにあるこの県内で初めて、唯一のモスクである。街はタイ東北のイーサーンと呼ばれる地域にあり、県内の人口は仏教徒がほぼ全体を占めている。それに続いて少数のキリスト教徒と僅かなムスリムがいるが、やはりモスクの建設への反対運動があり紆余曲折の後、2019年に完成した。玉葱型のグリーンのドームに2本のドームの載った角柱型のミナレット、尖塔アーチのポルティコと端正なデザインでタイ南部のムスリムの多い地域にもありそうな雰囲気である。なぜここにと思って調べてみると、メコン川対岸の経済特区のあるラオス・サワンナケートへのゲートウェイでもある街なのでムスリム投資家の便宜を図りたいとのことのようである。東北は前述の通りムスリムは少なく、県内にモスクは無かったため、礼拝場所としてそれを集約できることもあるだろう。

Jaidah Mosque

Doha, Qatar : ドーハ・カタール  ドーハ市内のやや郊外の住宅地に位置する、地元で愛されるような何気ないモスクであるのだが、実にフォトジェニックな水場のあるミナレットをもつ。モスクは2004年に完成、アラブ様式で1本のミナレットとメインドーム、それに中庭側の両脇に小さな2個のサブドームがあるシンプルなデザインである。特徴のある水場は目の前の通りからすぐに見え、赤・黄・緑、それにターコイズブルーの小さなタイルが色とりどりに並べられ、外側を同じターコイズブルーに金のカリグラフィーを描いた大きめのタイルが囲んでいる。少し残念なのは小さなタイルの一部が剥がれ落ちてしまっているのではあるが、それはご愛嬌。トルコ文化圏で見かけるような公共の飲用の水なのか手を洗うだけの場所なのかよくわからなかったが、礼拝前の清め(ウドゥ)の水場は中庭にきちんとある。モスクはコの字で囲まれるように3本の通りに面して建っていて、水場のあるミナレットとミフラーブのある裏側には小さなエントランスがあり、そのアーチをくぐると中庭に出る。中庭を区切る飾りのアーチを抜けると礼拝堂のドア、その向かいにはもう1本の通りへ出る大きな正門がある。デザインは最近ではAl Thumama Stadiumやカタール最大級の Imam Muhammad Ibn Abd Al-Wahhab Mosque(State Grand Mosque) などを設計した、カタールの建築事務所のAEB:Arab Engineering Bureauによるものある。アラビア半島だけでなく各地で大きなプロジェクトを建造しているが、このような無名といってはなんであるが小さなモスクも手掛けている。CEOでチーフの建築家はIbrahim M. Jaidah氏であるが、モスクの名前はJaidah Mosqueと名付けられている。

KLIA Sultan Abdul Samad Mosque

Selangor, Malaysia : スランゴール・マレーシア  クアラルンプール国際空港(KLIA)と市内を結ぶバスに乗るとちらりと見えて過ぎ去っていくのだが、際立った配色の大きなドームが記憶に残っていた。空港施設の一部として造られた正に空港モスクとしての立ち位置なのであるが、空港のターミナルからはだいぶ遠く離れていて、KL市内からは車で気軽に訪れる場所でもなくどんな人が行くのであろうかと思い訪ねてみることにした。モスクに着いた時点では、駐車場には車がたくさん止まっており、また大勢のアラブ系観光客の礼拝者が団体でモスクのエントランスにいて、観光バスも何台か止まっていた。車は地元の礼拝者か空港関係者であろうか、それ以外にも観光ツアーで自国への帰路途中に、礼拝の立ち寄りに利用されているようである。完成は2000年、名称はスランゴール州の故第4代スルタンの名から取られた。花が咲き乱れる庭園のような庭から、両端に2本のミナレット、正面のエントランス上にサブドームと、礼拝堂頭上に大きなメインドームが見える。メインドームは明かり取りのガラスが黄色い植物文様で縁取られ、頭頂部はターコイズの色の格子のパターンで飾られており、その台座は正方形をずらして重ねたようなイスラーム式の八芒星をしている。エントランスを入りそれを抜けると、円弧型に切り取られた空と屋根のついた回廊が突然現れる。中庭の向こうに先ほど外庭から見たメインドームがまたもう一度見え、視覚的な効果としても面白いのだが、実は空から見ると前述のドーム台座の「星」と弧の「月」が組み合わさったデザインになっている。航空機に乗って上空から眺めた姿をイメージしていたのだろうか。ドームの明かり取りの内側はステンドグラスになっており、透過するカラフルな光が白い荘厳な礼拝堂を鮮やかに照らしていた。